セミナーレポート6
失敗事例から学ぶ、老舗日本企業の働き方改革~コクヨの働き方改革プロジェクトアドバイザーが伝授~
1969年に日本初のライブオフィスを設立するなど、早くから働きやすいオフィス空間の提案に取り組んできたコクヨ様。近年では、空間だけでなく、働き方も含めたトータルな提案に力を注ぎ、多くの企業の働き方改革をサポートしています。セミナーでは、ワークスタイルコンサルタントの立花氏から、働き方改革を成功させる秘訣と、一人ひとりが自律した働き方ができるようになる方法について、熱く語っていただきました。
<プロフィール>
コクヨ株式会社 ワークスタイルイノベーション部
ワークスタイルコンサルタント 兼
1級ファイリング・デザイナー 兼
オフィスセキュリティコーディネーター
立花 保昭 氏
目次
何のために働き方を変えるのか、目的を明確にする
―― 働き方改革がうまく進まない場合、どのような原因が考えられるのでしょうか。
立花氏:
今、たくさんの企業が一所懸命に働き方改革にチャレンジされていますが、私から見ると、「あともう少しでうまくいくのに」と思う企業がとても多いように感じます。では、どうすれば良いのか、ポイントを3つご紹介しましょう。
ひとつ目は、働き方改革を通して会社をどう変えたいのか、会社のめざすべき姿(ビジョン)を明確にすることです。例えば、シェアナンバーワンを獲得するとか、利益率トップになるとか、具体的なビジョンを打ち出して、「その実現のために、働き方をこのように変える」というロジックを従業員にしっかり浸透させることが大切です。
よくある失敗例が、社長が突然「明日からフリーアドレスにするぞ」と言い出すケースです。何のためにやるのか説明がないと、従業員は「コスト削減か?」「賃金も減るのでは」と疑心暗鬼になり、「苦手な上司から離れた場所に座ろう」とネガティブな方向に走ってしまい、かえって業務に支障が出ることもあります。また、フリーアドレス化した企業に目的を尋ねると、決まって「コミュニケーションの活性化」と回答されますが、では、誰と誰のコミュニケーションを活性化させたいのかと聞くと、ほとんどの企業は答えに窮してしまいます。上司と部下のコミュニケーションを活性化させたいのか、部署間なのか、社外パートナーとのコミュニケーションなのか、そこまで考えないと、効果的な改革はできないと思います。そして、そこまでイメージできないのは、そもそも、会社としてのビジョンが定まっていないからです。まず、会社のめざすべき姿を決めること。それが働き方改革を成功させる第一歩です。
問題が解決できないのは、隠れた課題に気づいていないから
―― 働き方改革をしても業務課題が解決できない場合、何が問題なのでしょう。
立花氏:
課題が解決できないのは、多くの場合、課題を深掘りしていないことが原因です。例えば、よくある課題として「オフィスで集中して仕事ができない」ということがありますが、「それなら集中ブースを用意しよう」と結論を急がず、なぜ集中できないのか、隠れている課題を掘り起こすことが大事です。
2つ目のポイントとして、こうした隠れた課題を見つけ出すには、「型」・「場」・「技」の観点で考えるのが有効です。例えば、オフィスで集中できない理由を、「場」(空間・動線)という観点で考えると、集中エリアがない、席が狭くて人の出入りが多い、机の上が整理されていないなどの課題が見つかります。「型」(ルール・運用)の観点では、電話で業務が中断される、職務中に声がけされることが多い、メールがチャット化している。「技」(意識・スキル)の観点では、メールの受信通知ポップアップを解除していない、集中するための時間が作れていない、集中して仕事をするスキルがないなど、たくさんの課題が見えてきます。
つまり、「集中できない」という課題を解決するには、単純に集中ブースを用意するだけでなく、こうした隠れた課題も合わせて解決する必要があります。例えば、集中ブースに居る人には午前中は電話の取り次ぎをしないとか、上司も声がけをしないというルールを作るなど、課題に合わせた施策を複合的に行いましょう。
必ずKPIを設定して、成果を検証する
―― 働き方改革の成果は、どのように測ったら良いのでしょうか
立花氏:
ポイントの3つ目、働き方改革を行うときは、必ずKPIを設定するべきです。以前、アンケートを行ったところ、働き方改革をしている会社の28%しかKPIを設定していませんでした。多くのリソースを要するプロジェクトなのに、KPIを設定していなければ成果の検証もできず、やりっぱなしで終わってしまいます。
また、「働き方改革は、KPIの設定が難しい」という声もよく聞きますが、それは目的が曖昧だからです。例えば、働き方改革の定番である「生産性向上」も、どの部署の何の生産性を上げたいのか、もう一歩具体的にブレイクダウンしないとKPIは設定できません。例えば、生産性向上のひとつとして、「会議の効率化」という具体的なテーマが出て来ればKPIも容易に設定できます。会議の量を改善したいなら、会議時間や定例会議の回数、会議の準備時間がKPIとして設定できます。また質の改善であれば、意見やアイデアが活発に出ているか、きちんと結論が出ているか、決まったことが実行されているかなどがKPIとして設定できます。
KPI作成の手順をまとめておくと、1.明確な目標と定義をつくる。2.設定された目標をブレイクダウンする(具体的なアクションに落とす)。3.優先してやるべきことを絞り込む。4.絞り込んだアクションに数値目標を設定する。という流れです。KPIの設定は手間のかかることではありますが、これによって目標達成へ向けてやるべき行動が明確化され、社内リソースを集中でき、結果も明確に数値で分析でき、チームや個人の評価も透明化できるという多くのメリットが生まれます。
働き方改革には、従業員の意識改革が必要
―― 働き方改革に対して、従業員はどのような姿勢で臨めば良いのでしょうか。
立花氏:
働き方改革は会社が主導するものなので、どうしても従業員は受け身になってしまいがちです。しかし、従業員が「やらされ感」を感じているうちは、働き方改革は成功しません。必要なのは、従業員が働き方改革の目的を理解し、自律して働けるようになることです。ご存知だとは思いますが、自律とは「他から支配や制約を受けずに、自分自身で立てた規範に則って行動すること」という意味です。
こうした自律した働き方をするためには、1.会社のめざす姿(ビジョン)を理解する、2.会社の強みを理解する、3.そのなかで自分がめざす姿を決める、4.めざす姿になるために必要なことを整理し実行する、というステップが必要です。日本のサラリーマンは、自分の会社のビジョンや強みを理解していない人がほとんどだと思います。以前、米国で企業のオフィス視察をしたことがあるのですが、どこの会社でも、誰に聞いても、「うちの会社の強みはマーケティングです」「グローバルの統一感です」などと即答してくれました。みなさんは、自分の会社のビジョンや強みを語れるでしょうか。まずこれが自律した働き方への第一歩です。そして、そのなかで自分は何をめざすのか、個人としてのビジョンをもちましょう。2〜3年後にはこんな仕事ができるようになりたい、あんな資格を取りたいなど具体的な目標を決めてください。そして、その達成に向けていまの自分に足りないものを整理して、実際に行動することが、自律した働き方につながります。もっと言えば、自分の行動に対して数値目標を設定して、測定・管理までできれば完璧です。
小さな行動の積み重ねが、1年後のあなたを大きく変える
―― 自分のめざしたい姿はイメージできても、そのために何をすれば良いかがわからない場合はどうしたら良いでしょうか。
立花氏:
目標達成へ向けてやるべきことを導き出すには「マンダラート」という手法がおすすめです。あの大谷翔平選手が使ったことで有名になりましたが、縦9×横9のマス目の表を用意して、中央のマスに自分のめざしたい姿を書き込み、その達成に必要だと思うことを周囲のマスにどんどん書き込んでいく方法です。興味のある方はぜひインターネットで詳しいやり方を検索してみてください。彼は高校一年のとき、「マンダラート」のまんなかに、「ドラフト会議で8球団から1位指名」と書きました。そして、そのために必要だと思う行動を書き出して、コツコツと実践した結果、いまやMLBのスター選手に成長を遂げています。彼がやり続けた行動の中には、「体幹強化」「リリースポイントの安定」「体重増加」などトレーニングに関することがある一方で、「あいさつをする」「一喜一憂しない」「ゴミを拾う」というような、日々の小さな行動もたくさん含まれています。
みなさんが、目的達成への行動を考える時も、こうした小さなことで良いのです。できそうもない大きなこと書いても意味がありません。目標に近づくための小さな一歩を考えましょう。なかには、「そんな些細なことでイノベーションを起こせるのか」と言う人がいるかもしれませんが、実際に大谷翔平選手はこれで夢を叶えています。
みなさんも、ぜひ、自分のめざしたい姿を考え、「マンダラート」でやるべきことを整理し、優先順位を付けて、毎日やり続けてください。そうすれば、自律した働き方ができるだけでなく、1年後、想像以上に成長した自分に会えることでしょう。これこそが、本当の働き方改革だと思います。みなさんのご健闘をお祈りしています。
まとめ
最後に、ここまでの立花氏の話をおさらいしていきます。
まず、働き方改革を成功させるためには、明確な「会社が目指す姿(ビジョン)」を打ち立てることが第一歩となります。ビジョンを見せることで、社員は目指すべき方向が理解できます。そうすれば、やらされ感を抱かず、納得して改革に取り組めるようになります。次に、働き方改革をトップダウンだけで強行するようなことはやめましょう。現場の実態を正確につかみ、「型」・「場」・「技」の3つの視点から真の阻害要因を見つけ出すことが重要になります。社員の声を吸い上げて改革に活かす、ボトムアップを意識するといいでしょう。そして、働き方改革を行う際には必ずKPIを設定します。これにはさまざまなメリットがありますので、手間はかかりますが、ぜひ取り組んでほしいところです。
今この記事を読んでいる方がもしも従業員の立場であるなら、ぜひ受け身にならず「自律」した働き方を意識してください。ステップとしては、1.会社の目指す姿(ビジョン)を理解する、2.会社の強みを理解する、3.そのなかで自分が目指す姿を決める、4.目指す姿になるために必要なことを整理し実行する、となります。社員の一人ひとりが自律して働くことことが、働き方改革成功をもっとも早く成功させる近道となるでしょう。
いかがでしたでしょうか?本記事が、貴社の働き方改革成功につながる気づきになれば幸いです。
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。