2020年11月6日、福岡雙葉中学・高等学校(※以下「福岡雙葉」と省略)が、教育関係者向けにICTを使った公開授業を開催しました。KDDI まとめてオフィスも運営をご支援した今回の公開授業。九州地方を中心に、中国地方や関東地方からも総勢320人の教育関係者が参加。ICT教育への関心の高さが伝わってきます。新型コロナウイルス対策として、来場者はネット上での受け付け(対面受付をできるだけ回避)、手指消毒、検温を済ませ講堂での開会を待ちました。公開授業では授業中の教室にゲストを入れず、廊下からの見学までに留めていました。教室内にカメラ係の教員を配置して、別の教室に授業の様子を中継するといった3密を避けるための工夫が見られました。Withコロナ時代の新たなスタイル確立を試みようとしていました。
目次
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公開授業を開催した福岡雙葉の想い
最初に登壇した学校法人福岡雙葉学園の麻生 泰 理事長は、新型コロナウイルスによる休校が、教育ICTの必要性が高まるきっかけとなっている点に触れたあと、「教員にも、それぞれ得意なことと苦手なことがあるが、生徒のために何かしてあげたいと思う気持ちは共通だ」と話しました。福岡雙葉では、休校期間中の今年4月8日から授業動画をYouTubeに公開。デジタル機器が苦手な教員も動画を撮影・編集し、生徒に届けました。麻生理事長は、公開授業を開催した理由について「公開授業をきっかけに、教育者同士が交流し、全体のICTレベルが上がっていく1つのヒントになればいい」と、自校でICT教育を進めるにあたり出てきた課題や、良かった事例などを教育関係者と共有することがICT教育の推進につながると呼びかけました。
つづいて登壇した福岡市教育委員会の星子 明夫 教育長は、国のギガスクール構想を前倒し11月末までに福岡市の市立学校に通う約12万人の児童生徒全員に1人1台のタブレット端末の導入が完了する予定であることを挙げたうえで「整備したICT環境を最大限に活用し、動画やAIドリルなどさまざまなデジタルコンテンツを活用した学習などで、子どもたち1人1人の可能性を最大限に引き出す新しい授業スタイルの確立に取り組んでいきます」と話しました。さらに、星子 教育長は「新しい学びを構築するためにも、市内の私立学校との連携にも取り組んでいきたい」と福岡市全体でICT教育を推進する意欲を示しました。
そして、福岡雙葉でICT推進委員長を務める甲斐 恭平 教諭は「すべてをデジタルに変えればいいということではなく、一部をデジタルに変えることで効率的になる点や、生徒の提出物が紙だけではなく、動画や静止画になることで表現の幅が広がり、教員の評価の仕方が変わるなど、いいことがたくさんあると思います」と話しました。
ICTを活用した8つの授業を紹介
いよいよ教室での公開授業。教育関係者が見守るなか、8つの授業が始まります。今回の公開授業では、それぞれの学校により違うICT機器の状況を考慮し、教室ごとに使用する機器に変化をつけて行われました。
① 高校1年生 英語 長村 裕 教諭
英語の授業では、デジタル教科書を使って電子黒板に直接書き込みながら教員が解説を入れていきます。板書の時間が省略でき、見やすいモニターにカラーでポイントを示せるため、生徒も教員の話に集中することができます。そして、効率化により捻出した時間を使い、知識定着を狙った小テストなどの反復演習を行います。小テストは、Googleフォームを使うことで、結果をその場でフィードバックすることができます。正答率がすぐに見られるため、多くの生徒が間違えた問題を重点的に解説することができます。授業の最後には、理解度を量るため授業内容の要約を英作文させ、「ロイロノート・スクール※1」を使って回収。教員の添削もタブレット上で行っています。
※1 ロイロノート・スクールとは、「思考力」「プレゼン力」「英語4技能」を育てる 授業支援クラウドです。全国2,000校以上の学校へ導入されており、KDDI まとめてオフィスがICT化をご支援する学校でも多く利用されています。
② 高校2年生 世界史 有村 奈津希 教諭
社会科では、Google Earth が効果的に使われています。都の位置や帝国領土の変化を、地理的要因から捉えることが容易になり、「覚える世界史」から「考え理解する世界史」へと変化しています。また、写真や絵画などをカラーで表示し、タブレットで拡大・縮小も簡単にできるため教員が解説しやすく、生徒の理解度も高まります。
③ 中学1年生 美術 塚根 直 教諭
美術の授業では、タブレットで撮影した目をAdobe Illustrator Drawでトレースし、目の細かな部分をじっくり見ながら描いていきます。前回の授業で描いた「イメージで描いた目」と比較することで、見慣れたものに対しても新鮮な見方が養えます。
④ 高校2年生 数学Ⅲ 石井 貴士 教諭
数学の授業では、教員だけがタブレットを使用し、この日の内容に必要な復習からスタートしました。Flippity※2をブラウザから利用し、モニターに確認すべき項目がカードのように並びます。1つ1つみんなで確認していき、確認が済んだカードを消していきます。本題の「三角関数の極限」を学習する際には、desmos※3を利用することで数式を入れると瞬時にグラフが描かれます。複数のグラフを一度に出したり、別のグラフと比べたりすることが容易になるため、極限に対する理解を深められます。
※2 Flippity とは、Googleスプレッドシートのデータから、クイズで使うフラッシュカードやビンゴなどを簡単に作れるオンラインサービスです。
※3 desmos とは、Webブラウザで動く、グラフ描画サービスです。入力した数式が瞬時にグラフ化されます。
⑤ 中学1年生 理科 豊釜 光宏 教諭
理科の授業では、学校に1台しかないようなオシロスコープの代わりに音の波形がわかるアプリを使うことで、高価な実験器具を生徒全員が擬似的にタブレットで体験することができます。その波形から、振動数を計算し音階との関係性を見出していきます。理科では、3人1組で実験を行いながらタブレットで動画を撮影し、それぞれが実験で分かったことを動画にまとめて提出しています。分かりやすく動画で伝えるためには、生徒が「教える側」の視点に立つため、学習効率を高めることができます。
⑥ 中学2年生 英語 Jason Van De Velde教諭
福岡雙葉には、中学の1学年に1クラス、外国人教諭が担任を持つクラスがあります。このクラスでは、ホームルームはすべて英語で行われ、英語の授業の中に英語で数学や社会を学ぶCLIL(内容言語統合型学習)があります。この日は「英語で学ぶ社会」で、日本神話について英語で学びました。生徒の解答をスクリーンに映し、その場で添削するなどスピード感のある授業が行われていました。また、生徒のモチベーションを引き出すためKahoot!※4というアプリを使いクイズ形式で学習効率を高める取り組みも行われています。
※4 Kahoot! とは、世界で12億人に使われているクイズ作成サービスです。授業で使うクイズを簡単に作成できます。
⑦ 中学3年生 音楽 本多 修一 教諭
音楽の授業では、生徒が「おもてなしソング」を作りました。これまで音楽の授業では取り組むことが難しかった作曲でしたが、ボーカロイド※5とGarageBand※6を使って、これまでとは違ったアプローチで出来るようになりました。歌詞とメロディーを入力することでボーカロイドが歌ってくれますが、そのままではただの機械音となってしまいます。ビブラートなどさまざまな歌唱技術を編集で加えることで徐々に表現豊かな歌に近づけていき、音楽の奥深さを生徒が客観的に感じることができます。
※5 ボーカロイド とは、音声合成技術です。メロディーと歌詞を入力すると、曲に合わせた歌声を合成できます。
※6 GarageBand とは、タブレットにもとから入っている無料の音楽制作アプリです。タブレット・スマートフォンのみで音楽制作が楽しめます。
⑧ 高校2年生 現代文 森田 亜紀 教諭
現代文の授業では、生徒がスマートフォンでロイロノート・スクールを使っていました。ロイロノート・スクールの大きな特徴であるシンキングツールを使い、生徒の頭の中を視覚的に整理させる狙いがあります。これまでは紙に付箋を貼って行っていたようなことですが、何の準備の必要もなく、タブレットやスマートフォン上で行えます。そして、授業の締めくくりとなる発問を、教員自作の動画で生徒に投げかけました。
今回、授業を行っていない教室では、授業のモニタリングや、使用しているタブレットの体験、さらに来場された方の質問に授業を行っていない教員が応じるなど、できるだけ教育現場の取り組みが見えるよう工夫がなされていました。
学校でなければできないことが求められる時代に
公開授業のあと来場者は、2013年の新入生から1人1台のタブレットを導入した近畿大学附属高等学校の教育改革推進室室長 乾 武司 教諭による講演に、耳を傾けました。乾教諭が、自校にタブレットを導入した頃から現在までの経験談をもとに話す言葉には力が感じられます。導入時に定めた運用ポリシーは「生徒が使うアプリやインターネットなどは特に制限を設けない」というものでした。かなり自由度のある内容に、当時、他の教員から「学校がつぶれる」と反対の声がかなり上がったといいます。しかし、校長が反対する教員に言っていたのは「生徒は未来からの留学生。ICT機器が当たり前の世界で生きて行く力が必要で、我々がみすみす大人の都合で制限をかけてはいけない。」という内容だったといいます。これまで、厳しい制限を設けず生徒がタブレットを使用してきましたが、大きな問題は起きていないといいます。また、日本のICT教育が各国に比べ遅れをとっているという調査結果を示した際には、会場の教育関係者の多くが頷く場面もありました。そして、新型コロナウイルスによる休校の影響でICT機器を活用すれば登校しなくても学習ができることが分かったことで、「学校でなければできないこと」「みんながいなければできないこと」が学校に求められていると話しました。
最後に谷本 昇 校長が登壇し、「デジタル教材やオンライン教育などは、使えるだけ使えばいい。それらを使うことで、教育者が本来行う対人・対面というオフラインの大切さがいっそう分かってくるはずです。福岡雙葉では、オンラインの利点とオフラインの利点を活かしてハイブリッド型の教育を進めていきたいと考えています。」と話しました。そして、今回授業を行った教員を壇上に上げ、「教育者同士のネットワークを築き、福岡からICT教育を盛り上げ行きましょう。」と改めて強調しました。
閉会後、講堂では教育者同士が個別に話し合うなど交流が始まっていきます。こうして、福岡のICT教育が本格的に動き出したことを予感させられる公開授業が幕を閉じました。
KDDI まとめてオフィスがICT化をご支援した、福岡雙葉学園様の取り組みは、以下の記事でご覧いただけます。
<取材協力>
福岡雙葉中学・高等学校 様
2019年度から教員全員と生徒用の共有のタブレット(LTEモデル)110台を導入。2020年度からは、1人1台のタブレットを中学1年生に導入し、来年度には中学生全員と高校1~2年生が1人1台タブレットを持つ予定です。新型コロナウイルスによる休校期間中には、早急にYouTubeで授業動画を配信しました。
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