全国的に、空室率が上昇し賃料下落しているわけではない。 エリアの特性や自社の状況を見ながら考える3つの移転の形【イベントレポート】
働き方やオフィスの在り方は新型コロナウイルスの影響により、刻一刻と変化しています。
前回の記事に引き続き、コロナ禍による変化にどの様に対処していけばよいかを考えるオンラインセミナーの内容(*)をレポートとして紹介していきます。
今回登壇いただいたのは、全国に拠点を構えオフィス仲介を専門に行う三鬼商事株式会社 新橋支店 次長 金野晋也氏。オフィススペースの圧縮や、都心部以外にサテライトオフィスを設置するニュースなどを目にする機会は増えて来ていますが、実状はどうなのでしょうか。データをもとに、実状を語っていただきました。
*本記事はセミナーの内容に加え、金野様に別途でヒアリングを実施した内容をもとに作成しています。
目次
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「東京以外ではサテライトオフィスのニーズは少ない」ビジネスエリアごとの空室率状況
金野氏:当社は全国各地のオフィスビル情報を正確に把握し、いち早く情報を届けられるネットワークを構築しています。この仕組みにより全国な主要ビジネス地区の空室率(空室面積 / 貸床面積 にて計算)を算出しています。
東京23区を例にすると、2020年9月時点では、オフィスビルが3,717棟あり、貸床面積が約1,050万坪ある中で平均空室率が3.52%、約37万坪の空室がある状況です。 平均賃料は共益費を抜いたもので算出しています。
金野氏:2020年9月時点において、東京以外の全国の主要なビジネス地区の空室率は下記の通りです。
札幌は2.25%で前月比0.09ポイント下降
仙台は5.18で前月比0.45ポイント下降
横浜は3.72%で前月比0.21ポイント下降
名古屋は3.05%で前月比0.04ポイント上昇
大阪は2.96%で前月比0.18ポイント上昇
福岡は3.15%で前月比0.24ポイント上昇
「全国で一律に空室率が上昇しているわけではない」というのがポイントです。個別の要因を挙げると、BPO業務(コールセンター)企業の増床やIT系企業の拡張移転、金融やアパレル系企業の撤退など。ビジネス地区によって上昇・下降の要因はまちまちと言えます。
金野氏:緊急事態宣言が解除された2020年5月以降の空室率に目を向けると、東京・名古屋・大阪・福岡では上がり続けており、仙台・札幌・横浜では5月から8月にかけて上昇するも、9月に下降しています。
こちらのグラフからも空室率は地域によって濃淡があり、一概には言えないことが伝わると思います。
ただ、全国で共通する定性的な傾向が2つあります。ひとつ目が、地域を問わず従業員規模の大きい企業ではテレワークが進んでおり、従業員規模の少ない企業では出社しているケースが多いこと。ふたつ目が東京以外ではサテライトオフィスのニーズが少ないことです。 当社では、東京以外でサテライトオフィスのニーズが少ない理由を、東京と比較して東京以外のビジネス地区では職場と住宅が近接している事が大きな要因と捉えています。
賃料は景気の影響を受け、空室率と連動するものの遅行する
金野氏:次に空室在庫面積と平均賃料の関係を見ていきましょう。
金野氏:直近の20年間で見ると、08年のリーマンショックのタイミングや12年の大型ビルの大量供給が行われたタイミングでは空室在庫が著しく上がっているのが分かると思います。
金野氏:この空室在庫のグラフに、空室率と平均賃料のグラフを重ねると面白いことが分かります。
空室率は5%が適正ラインと考えられており、5%を下回り3%ラインに近づくと「貸し手市場」、逆に7%ラインに近づくと「借り手市場」になります。赤の実線で示している平均賃料は、借り手市場で空室在庫が最も多かった12年ではなく14年頃に最も下がっていることが見て取れます。
つまり、空室率は景気の動向とビルの供給量に影響を受け、平均賃料は空室在庫の増減に影響を受けつつも遅行して上下するのです。
今後、オフィスの移転を計画したり、ビルオーナーと賃料の交渉をする際には、その点を意識すると良いでしょう。
金野氏:範囲を狭めて、東京の空室率に目を向けましょう。
東京のビジネス地区全体では3月から7カ月連続で空室率が上昇しています。主要な東京5区(千代田区/中央区/港区/新宿区/渋谷区)でも、5月から6月にかけて空室率が大きく上昇している点がポイントです。
金野氏:別角度から4月から9月の規模別の空室率をみると、4月は都心5区は空室率が1.56%でほぼ空室がない状態であったのが、9月を見ると、空室率が3.43%で約15万坪の空室が増えています。半年で結構空室が出ているのが印象的です。
港区と渋谷区に特色があって、港区は500坪以上の大規模ビルの空室が増えていて、渋谷区は100〜299坪の小規模ビルの空室が増えています。渋谷区ではスタートアップなど小規模な企業のテレワーク化が進んだことが要因だと考えられます。この様に、都内でもエリアによって特色があるのです。
この特色が、「コロナ禍でのオフィスの空室はこうです」と明言できない所以です。
コロナ禍で増えた、3つのオフィス移転の形
金野氏:コロナ禍でお客さまから当社に相談いただいた事例を分類すると、集約(統合)型、圧縮型、分散型の3つに分けることができました。
それぞれを詳しく説明すると、「集約型」は分散していたオフィスを集約する形。コロナ禍以前は、いくつかの支店を統合し一箇所で広い面積のオフィスを借りる事例もあったものの、コロナ禍以降はテレワークを推進し統合のみを行うケースが増えてきています。 「圧縮型」は現状の面積から4〜5割圧縮し、立地の改善やビルのグレードアップを行う形。在宅勤務をうまく導入し、社員の出社率を2〜3割程度に抑えることでオフィスの面積が狭くなっても問題がない状態を作っているのが特徴です。立地の改善により、人材確保や社員の帰属意識を高めることを目的にしています。 「分散型」は本社や支店は現状のまま維持し、都心と郊外の間にオフィスを借りたり、サテライトオフィスを借りて多様性に答える形です。従業員規模の大きい企業からご相談をいただくケースが多いように思います。
「圧縮型」「分散型」テレワーク導入がうまく行っていることが大前提となります。
金野氏:最後に、最近では「オフィス不要論」なども耳にはしますが、個人的には必要であると思います。また、不動産に関わる者としては、今は空室率も上昇する傾向にはあるためグレードアップや移転には狙い目の時期に差し掛かっていると思われます。
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