ICT・プログラミング教育・著作権の3つの視点からこれからの学びを考える|オンラインセミナーレポート
テクノロジーの普及は社会を大きく変えており、その影響は当然ながら教育の分野にも及んでいる。教育現場でも文部科学省のGIGAスクール構想が登場し、新学習指導要領がスタートする中で、教育へのICT導入による新たな取り組みが模索・試行されている。 2021年3月15日から31日にかけて配信された「KDDI まとめてオフィスの学校向けオンラインセミナー ~これからの教育ICT推進に向けて~」では、「教育ICT」とそれにまつわる「プログラミング教育」「著作権」の3つのテーマで構成され、これからの学びに向けたヒントを提供した。
目次
ICT教育のお悩みは、KDDI まとめてオフィスにご相談ください
日本大学第三中学校・高等学校がICT導入で実践したこと、変わったこととは
最初のプログラムは「日本大学第三中学校・高等学校の教育ICT 〜導入から活用まで〜」。日本大学第三中学校・高等学校は、東京都町田市にある日本大学の特別付属校で、2019年度で創立90周年を迎えた。
同校では、2018年度以前の授業は黒板とチョークが基本。Wi-FiモデルのiPadを30台導入していたものの、Wi-Fiは図書室でしか使えなかったという。そこでICT導入の検討をスタート。
「ICT先進校を20校ほど訪問してノウハウを吸収し、セミナーにも多数参加しました。本校は後進校であるがゆえに、他校のいいとこ取りでICT導入を進められました」と樋山 克也教頭は振り返る。
日本大学第三中学校・高等学校
教頭 樋山 克也氏
2019年4月から中学1・2年と高校1・2年にiPadのセルラーモデルを一斉貸与することを決定。キャリアはKDDIを採用した。実際の活用については、積極的に使う教員とそうでない教員の格差が生じたため、毎週土曜に教員の打ち合わせをiPadで実施。これにより次第に使う教員が増えていったという。そのほか校内で講習会も実施し、活用の共有を図っていった。そして2019年9月、全校にWi-Fiを設置したことで、授業でのICT本格活用がスタートした。
ICT活用にあたって、保護者用に「タブレット(iPad)使用に関するガイドライン」、生徒用に「利活用の手引き」やメディアポリシーの作成を行ったり、ICT推進室を開設していつでも相談ができる専属SEを常駐させたりと、学内周知や事前準備も徹底した。
続いて具体的な活用事例を、同校 ICT推進委員長の阿川 将樹氏が紹介した。同校では校外学習で実地調査を実施している。例年はその校外学習に紙のしおりを用いていたが、iPadに替えることで生徒それぞれにミッションを配信し、すぐに返すというリアルタイムな実習体験が可能になったという。また別の校外学習では、従来はアウトドアクッキングで作った料理の写真を班ごとに撮影し、後日アンケートによってコンテストを開催していたところ、iPad導入でリアルタイム投票が可能となり、保護者や教員も参加して順位を決めるという新しい方式を実践した。
そのほか、ICT活用による学力向上にもチャレンジした。「模試に向けて、例年は学力をなかなか伸ばせない生徒が多かったのですが、冬の休業中に学習記録・学習動画・Webテストを使い、どのような学習強化を行えるか試行したところ、生徒個々人のスピードに応じた学習形態が確立されていきました。これにより平均偏差値が急上昇するという大きな成果が出たうえ、生徒のモチベーション向上にもつながりました」と阿川氏は評価する。
日本大学第三中学校・高等学校
ICT推進委員長 阿川 将樹氏
さらにはコロナ禍で臨時休校となったときも「学びを止めてはいけない」との思いからオンライン授業を実施し、積極的なコミュニケーションを継続した。「後日、生徒のアンケートでは80%以上がオンライン授業に満足と答えていました」と阿川氏。コロナ禍でさまざまな学校行事が延期・中止となる中、オンライン文化祭、VRを活用したオンライン修学旅行などの試みも実施したという。
生徒のオンライン授業の満足度アンケート
最後に樋山教頭は「ICTを導入したことで、教員は効率的な授業ができるようになるとともに、生徒と向き合える時間が増えたと感じています。また生徒も、授業中に考える時間が増え、より深い学びができるようになりました。ICTで学習の振り返りをすることで、弱点が見える化されたことも大きな前進だと捉えています。今後もICTツールを活用し、人と人とのコミュニケーションをさらに増やしていきたいと考えています」と語り、プログラムを締めた。
急激に変化する時代に対応するため、プログラミング教育に求められるもの
株式会社ソニー・グローバルエデュケーション代表取締役の礒津 政明氏は「学校におけるこれからのプログラミング教育」のタイトルで講演を行った。
いま、世界はきわめて速いスピードで動いており、先が読めない中でテクノロジーの重要性が高まっている。プログラミング教育はそのテクノロジーの牽引役となるものだが、海外に比べて日本は遅れていると礒津氏は指摘した。
礒津氏は、プログラミング的思考とは「具体的思考と抽象的思考を繰り返しながら論理的に考えていくこと」とし、次のように説明を加えた。
「学校教育におけるプログラミング教育は、抽象化を学ぶものだと考えればわかりやすい。自動運転車に運転させるため、道路映像という具体的データを入力し、それをいったん抽象化して処理することで、自動運転という具体的な出力につなげます。プログラミング的思考は考え方そのものを身につけることで、さまざまな抽象化の方法に柔軟に対応できるようにするものです」
株式会社ソニー・グローバルエデュケーション
代表取締役 礒津 政明氏
社会が変化する中で、学校教育はなかなか変わらないといわれる。それが近年劇的に変わり始めたのは、デジタル機器の普及が大きく影響している。そこに今回、コロナ禍の影響も加わった。
「日本はこれまで遅れていましたが、これから周回遅れを挽回していこうという段階。ただ正攻法で追い越すのは難しいので、日本は『多様性』と『個性』をキーワードとし、独自の取り組みをすべきです」と礒津氏は強調する。
礒津氏が「多様性」と「個性」を出したのは、今後のAI時代の到来を想定してのものだ。AIが得意なのは「最適なもの」を一つ選ぶこと。それに対して人間には多様性と個性があり、その人間ならではの部分を今後より大切にしていかなければならないという。「多様性や個性を受け入れれば、学校にまつわる問題の大半は解決できるのではないかと考えています」と礒津氏は自説を述べた。
礒津氏はテクノロジー企業が学校教育に果たせる役割の例として、文部科学省・埼玉県が行う「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」を紹介した。同社はこの取り組みに事業者として参加し、埼玉県の学力調査データを同社のAIで分析、教育に活かすための実証を行っている。同社はこうした取り組みをさらに発展させ、新たな時代の教育をサポートしていきたいと礒津氏は語った。
文部科学省・埼玉県が行う「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」
法改正を受けて変わる、学校教育現場での著作権の考え方と取り組み
最後のプログラムは、株式会社テイクオーバルの我妻 潤子氏による「ポストコロナ、withコロナ時代の教育と著作権」だ。
2020年4月から改正著作権法35条が施行され、学校教育における著作物利用の一部に補償金制度が導入された(2020年度はコロナ禍の影響で制度が急きょ開始されたこともあり無償。2021年度から有償化)。この補償金制度を含め、学校教育と著作権の関わりについて、映像の著作権の権利処理に携わり、ワークショップなどで著作権の普及活動も行う我妻氏が、教育現場での実運用の観点からわかりやすい解説を展開した。
我妻氏は、まず35条の改正に至った流れと「著作権」「著作権者」などの用語について解説した後、改正のポイントを説明した。
改正前の35条では、学校の授業のためであること、権利者の利益を不当に害さないことなどを条件に、著作物の複製や一部の公衆送信(サテライト授業などで放送・インターネット配信により同時中継するような使い方)ができた。一方、改正後の35条では、条件に「公衆送信については補償金の対象となる」ことが付け加えられた。
改正後の35条では「公衆送信については補償金の対象となる」ことが追加
補償金の対象となる公衆送信は、教員が配信し生徒が自宅などで同時に受信する授業、教員が映像を録画してサーバーにアップロードし生徒は見たいときにアクセスする授業、教室にいる生徒と自宅などにいる生徒の双方が存在する授業の3つに分けられるが「どういう形であってもインターネット配信されている場合は公衆送信になるので、補償金の対象になると考えていい」と我妻氏は指摘した。
改正後も「権利者の利益を不当に害さない」という条件は入っている。これについて我妻氏は「たとえば一冊の参考書について、1回目の授業で第1章をコピーして生徒に渡し、以降の章も同様にした結果、気がつくと一冊すべてをコピーして渡してしまった、といった全部利用は、権利者の利益を不当に害するとされます」と解説した。
株式会社テイクオーバル
我妻 潤子氏
最後に我妻氏は「著作権と聞くと面倒くさいなどネガティブなイメージを持つ人もいるでしょうが、著作権とは著作物の利用に関して著作者・著作権者と利用者のバランスを取り、文化の発展に寄与するというのが存在意義。教育という文化の最も重要なところに携わっている教員のみなさんが、著作権に対する意識を高めていただければ幸いです」と締めくくった。
<取材協力>
日本大学第三中学校・高等学校
私立/男女共学校/中高一貫教育
2019年度に90周年を迎えた日本大学第三中学校・高等学校。
教育の三本柱に「勉強」「行事」「部活動」を置き、自然豊かな郊外にある15万㎡の広大なキャンパスで教育を行っている。
日本大学の目的および使命に基づき、平和的な国家社会の形成者として、真理を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康で教養高い人材を育成している。
東京都町田市図師町11-2375
https://www.nichidai3.ed.jp/
株式会社ソニー・グローバルエデュケーション
来たるべき社会の教育インフラを創造することをミッションとして、教育分野におけるプロダクト、サービス、データの領域で幅広くプラットフォームを提供し、グローバルな事業展開を進めている。
ロボット・プログラミング学習キット「KOOV」などの多様な教材コンテンツ、時間や場所の制約がなく学ぶことができるオンライン授業システムを、各種教育機関向けに提供しながら、次代を担う人材育成のための新たな「教育のあり方」を定義している。
東京都品川区西五反田2-11-17 HI五反田ビル3階
https://www.sonyged.com/ja/
株式会社テイクオーバル
全国の教育ICTを支えるべく、GIGAスクール構想サポート、クラウド型WiFiの提供、著作権等の権利処理代行を行っている。
中学生から社会人を対象に、著作権ワークショップ、セミナーなどの講習会も実施している。
福岡県北九州市小倉北区高坊1-5-41
https://takeoval.co.jp/
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