7月29日、100人近い教育関係者が参加した教育ICTに関するオンラインセミナー。茨城県でも有数の進学校で、生徒数2,000名を超える江戸川学園取手中学・高等学校様に、ご登壇いただきました。今回は、「教育ICTの導入に向けた準備と取組み」と題し、導入までに行った準備や、端末の選定理由、そして、生徒が使用するうえでの管理や制御の考え方などについてスピーチしていただきました。その概要をまとめてお伝えします。
学校プロフィール
江戸川学園取手中学・高等学校
私学 共学 中等部918名 高等部1,285名(2021年5月1日時点)
1978年創立以来、「心豊かなリーダーの育成」を教育理念と掲げ、「規律ある進学校」として、心力と学力と体力のバランスのとれた教育を目指して邁進している。40周年を迎えた2018年度からは「NEW江戸取」と題し、「世界型人材」の育成のため新たな教育改革を本格的にスタート。タブレットの導入は、2017年から共用で使いはじめ、2019年度入学の中学1年生より一人一台端末を購入し使用している。現在は、中学1〜3年生全員がタブレットを持ち、高校生は共用のタブレットを使用している。
登壇者
目次
ICT教育のお悩みは、KDDI まとめてオフィスにご相談ください
一人一台のタブレット導入までの 学校のICTに関わる下地
セミナーの前半は、平野副校長が、これまでの学校のICTに関わる経緯を踏まえながら、一人一台のタブレット導入までを話してくれました。
1990年代後半、江戸川学園取手中学・高等学校では、システムエンジニアを数名雇用しマルチコンピューター部を創設。マルチコンピューター部は、教務部や生徒指導部などと同格の部として、学校のホームページの開設や、全教員にパソコンの貸与、有線LANの構築、グループウェアを導入し教職員の勤務記録管理や指示・連絡の効率化などを担当してきました。平野副校長は、最初はホームページ作りなど不慣れでしたが、やっていくうちに楽しくなりプライベートでも自身のホームページを作るようになっていったといいます。
校務でパソコンを使うことが普通になっていくなか、2000年代後半になると、ある行動を起こす教員が出てきました。それは、自費でプロジェクターとスクリーンを購入し、Microsoft PowerPointを活用して授業を進める教員でした。プロジェクターは、ロングホームルームや保健の授業などでの活用が引き金となり、複数の教員がMicrosoft PowerPointを授業で活用していったのです。この動きを受け、マルチコンピューター部が、5セットのプロジェクターとスクリーンを購入し、ネットワーク上で予約して使用できる仕組みを作りました。すると、プロジェクターを使いたい教員がもっと増えていきました。
そして、本格的に教育ICTへと動きはじめるきっかけとなったのが、2015年に文部科学省が公表した「高大接続改革」の実行プランでした。2018年度の高等部入学生から調査書の様式が変わり、大学入試はポートフォリオや活動報告書の提出を求める多面的・総合的評価へと移行していくという方針が示されました。2016年、当時の教務部長だった平野副校長は、文部科学省が2022年にも調査書をデジタル化するのではないかという情報から、教育支援プラットフォーム Classiの導入を決断。ポートフォリオの蓄積や、学習コンテンツだけではなく、校務システムとして進化することに期待していました。
2017年からClassiの導入とともに、生徒が共用で使用するタブレット90台を通信会社からレンタルで導入。Classiは、生徒が学習で使用するWebドリルや学習動画などが充実していますが、導入当時は、あまり使われませんでした。一方で、コミュニケーションツールとして、校内グループへの指示や連絡事項の共有、生徒の学習記録に対して教員がコメントを記入するなど、活発に使われていきました。さらに、学習面では、授業支援アプリ ロイロノート・スクールを使い、資料の配布・回収、回答の共有、写真・音声・動画などさまざまなものが使えること、発表の手軽さなどの利点を実感し、授業でタブレットを使う場面が増えていきました。
そして、2018年度にはICT教育推進委員会(チーフ:金子 真紀教諭)を創設し、2019年度の中等部の新入生から一人一台タブレットを購入することを決めました。それに伴い、中等部の全教室にプロジェクターとスクリーンを設置し、Wi-Fi環境の整備も行ないました。
2020年2月末には、新型コロナウイルスの影響により休校となりましたが、Classiで生徒との連絡ができたことが救いだったといいます。生徒が登校できない状況で、教員が、学習コンテンツ教材をアップロードしたり、自前で授業動画・学習動画を制作し学校のホームページに上げるなどして対応。そして、2020年5月からは双方向でできるオンライン授業をMicrosoft Teamsで始めました。これまでの経験により、教員に最低限のICTリテラシーが備わっていたため、ICT教育推進委員会のメンバーを中心に3日間の研修と2日間のお試し授業を行っただけで、円滑にオンライン授業が進められました。その後も、高等部の全教室にもプロジェクターとスクリーンを設置し、Wi-Fi環境も整備。これらの整備により、対面授業とオンライン授業の切り替えがいつでも可能になっています。
2019年からは、大手学習塾グループの学校内個別指導塾を導入し、AIを用いた学習システムatama+を使った学習も取り入れています。
平野副校長は、数学を教える際、ICTを活用するのはグラフや図形の動きを見せるために便利なアプリケーションを使用するだけで、生徒の前で板書し問題を解くことにこだわっているという。ICTは、授業の中で使用した方がいい場面でだけ使うころがポイントで、ICTの活用を目的化してはならないと話します。また、教育にICTを導入するにあたり、懐疑的な考えもあることを紹介したうえで、それ以上に無限の可能性を感じると話しました。そして、副校長として、過去に自分でプロジェクターを買ってきて使っていた教員の様に、授業をよくするために自ら考えて新しいことに挑戦する姿勢や、また、それがいいものだった場合、自然と別の教員に伝播するようなことが、ICT活用の大きなヒントになっていくだろうと話しました。
一人一台のタブレット導入準備と運用に関する進め方について
続いて登壇したICT教育推進委員会チーフの金子 真紀教諭は、2019年度の中等部新入生から一人一台のタブレットを導入する際「タブレットは他の文房具と同様、常に自分の側にある学習ツールである」と基本姿勢を定めました。そして、端末を選定や運用・導入していく際に行ったことを、7項目に分けて話してくれました。
① タブレット端末は何にするのか?
まず、パソコンかタブレットのどちらかと考えたときに、手軽さからタブレットの方がいいのではないかと判断。そして、江戸取小から入学する一貫生は、3年前からSurface(Windows)を使用していました。その端末は、3年前のものなので若干古く、教育系アプリ・ソフトの数が少なく、MDM(モバイル端末管理ツール)によるOSのアップデートやネットワーク・アプリケーションなどの管理が少々面倒で一元管理がしにくいという印象を持っていました。一方、iPad(iOS)は、これまでも共用端末として使用してきていて、教育系アプリが豊富にあることや、MDMによる管理がしやすいという点が好印象でした。また、Android端末については、低価格なものがある点はいいのですが、メーカーごとにカスタマイズされていて制御しにくい面があるのと、セキュリティの面でウィルス感染の危険性など心配な面があるので、運用面でどうだろうと考えました。当時、某出版社が収集した首都圏の私立中高一貫校の調査を見ても、90校のうちiPadが64校と7割以上のシェアであったことなどから、導入端末をiPadに決定しました。
② 江戸取小から進学してくる生徒の端末はどうするのか?
3年使用してきたSurfaceの状態について取扱業者に確認したところ、70台中、月に10台ほどの問い合わせや、月に2〜3台の故障取り換え依頼がありました。利用期間が長くなるほど問い合わせや故障が増加している点なども考慮し、出費は増えますが新たにiPadを購入することを決めました。端末が混在し複雑化するよりも、統一することによる授業や管理面での利点を選択しました。
③ 管理・制御をどうするのか?
学びを止めないため、使い方に応じた管理・制御方法を考えました。使い方は、学校だけで使うものではなく、持ち帰って家でも使用できるものとし、管理・制御については、学習ツールとして使うので、学習に必要なアプリケーションだけを入れることができるようにするなど、有料のMDMを使用し学校側で制御することに決めました。
④ 通信手段は?
Wi-Fiモデルにするかセルラーモデルにするかの判断は、校内のWi-Fi環境は整備済みですが、学びを止めないという意味でも家族揃っての接続に耐えるWi-Fi環境がないご家庭がある可能性や、登下校時にも使用できる点、あるいは登下校時に災害が起きた場合などにも効力を発揮できるセルラーモデルを選択しました。
校内Wi-Fi環境も整備しているため、場合によって回線を併用するハイブリッド型の運用をしています。
⑤ 保険・保証は?
保険・保証については、入らなければお金がかからないのですが、修理となった場合に大きなお金がかかってしまう点と、修理に出した場合に時間がかかってしまう点を考慮し、さまざまな保険・保証を検討した上で月額数百円程度のキャリアオプションの保険に入ることにしました。加入することで、端末の取り換えが生じる故障などが起きても、2日前後で新しい端末が届くことが、安心感にも繋がっています。
⑥ 教員用は?教員研修は?
教員用のiPadは、該当する学年を担当する教員だけに導入しました。副校長の話にもあったように、いいものは伝播していくという学校の下地もあり、iPadを使用するとこんないいところがあるなと、使用していない教員の機運を高めていくことを考えました。また、導入前の2月に、KDDI まとめてオフィスに相談し、場面に応じた使い方の例や、教育アプリの紹介などの研修を受けました。その後も、ICT教育推進委員会のメンバーを中心とした研修を不定期ですが行っています。
⑦ 保護者の理解は?
入学手続き後の2月に行われる新入生登校日、生徒と保護者へ向けた学校説明のなかで、ICT教育および端末購入についても説明しています。iPadは5月の連休明けに、キッティング(※各種設定や使用するアプリケーションをインストールして、ユーザーがすぐに使える状態にすること)済みで配布することや、かかる費用を学校から請求することを伝えています。使い方に関しても、学習ツールとしてルールを守ってくださいと書面にまとめています。なお、教員用には、補足を含めたものを配布し対応しています。
最後に、金子教諭は「端末導入ありきでなく、教員がどのような授業を実現したいのかを考えて、そのために必要なツールとして無理なく使用していくことが重要」と話します。また、教員には生徒対応・教材研究など多忙のなかで、ICTの導入を進めるにあたり教育関連企業や専門家の力を借りることが必要であると話しました。
質疑応答
質疑応答では、参加者から2つの質問が上がりました。
1つ目は、ICT化すると、PowerPointを作る時間など授業外に出てくるのではないかという質問。金子教諭は、PowerPointと板書を併用してきた教員は、そのままでいいとし、江戸取でもICTをあまり使わない教員は、特別に時間をとることもなかったといいます。ICTを使うことが目的ではなく、使うと効果があるところに使用していけばいいと強調しました。また、時間を減らす工夫として、同じ教科の教員でPowerPointを手分けして作り、徐々に自分なりに変えていくことを実際にしていたと話しました。
2つ目は、タブレット端末を導入し、教員の負担が増えたこと、減ったことに関する質問でした。この質問に、金子教諭は、新たに使う教員はアプリケーションなどの使い方を調べ、覚えることに時間を割くことはあります。ただ、最初は少しの負担になりますが、生徒の学びのために導入しているので、それを負担と思うか自身の成長と思うかだと思います。無理に使ってくださいとは我々も教員に言っていません。学校として、生徒・保護者が負担して使用しているものを何も使わないままではいけないので、1つの教科で使用しなくても全体でタブレットを使っているということでいいと思います。特に、総合学習のように、自分の考えを整理して、その考えをみんなで共有し一つの意見をまとめるなど、タブレットをフル活用する授業もあるので、トータルで使用していることにつながると話しました。
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。