ABWとは?導入するメリット・デメリットと進め方や導入事例を解説
ABWとは、働く場所をオフィスに限定しない新しいワークスタイルのことです。オフィスに加え、カフェや図書館、屋外など従業員自らが目的に応じて働く場所を選択できるため、個々の生産性の向上が期待できます。ABWの導入を検討している方の中には、導入前にABWのメリットやデメリットが気になる方もいるでしょう。
当記事では、ABWの特徴や導入した場合のメリット・デメリット、手順・流れなどを詳しく解説します。ABWを導入する際の注意点や他社の導入事例も紹介しているので、ぜひ検討時のヒントにお役立てください。
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1.ABWとは
ABWとは、Activity Based Working(アクティビティー・ベースド・ワーキング)の略称で、従業員自らが、目的に応じて働く場所を選択できるオランダ発祥の働き方です。例えば、オフィスの中でも1人で集中して作業ができる集中ブースや、仕事のスイッチのオン / オフを切り替えやすいリフレッシュスペースなどがあります。
さらに、仕事をする場所はオフィス内だけにとどまりません。パソコン1台で仕事が完結する職種なら、自宅やサテライトオフィスなどの社外も「仕事をする場所」として選択できます。ABWは、働き方改革の推進やコロナ禍の影響によって急速に普及したテレワークをきっかけに、導入する企業が増えました。また、導入を検討することで、オフィスそのもののあり方を見直す企業も増えてきています。
2.ABWとフリーアドレスの違い
ABWはフリーアドレスと混同されることも珍しくありません。以下で両者の違いを解説します。
2-1.働く場所が異なる
フリーアドレスで選択できる場所は原則として、オフィス内のスペースに限られています。一方、ABWはオフィス内のスペースはもちろん、自宅やカフェ、コワーキングスペースなども対象になります。
2-2.導入する側の視点が異なる
フリーアドレスは、オフィスを利用する際にかかる家賃など、オフィス関連のコストを削減することを主軸として導入されます。一方、ABWは多様な働き方を受け入れ、従業員が働きやすい環境を整備することを重視しています。
2-3.導入の目的が異なる
フリーアドレスを導入する目的は、既存のオフィスから規模を縮小できる場所に移転する、空席をなくしオフィスの稼働率を上げるなど、物理的に環境を変えることにあります。一方、ABWの導入目的は物理的な環境だけでなく、従業員の自主性を養うなどの行動変容を見据えた変革を行うことです。
3.ABWのメリット
ABWを導入した場合、生産性の向上やコスト削減などのメリットがあります。以下で詳しく解説します。
3-1.業務効率アップにつながる
ABWでは、従業員が自分自身の業務内容やメンバー構成に応じて働き方を自由に選択可能です。作業に必要な場所と環境を選んで業務に取り組めるため集中しやすくなり、業務効率の向上も見込めます。たとえば、1人でも進められる作業なら出社せず自宅でのテレワーク、チームでの協力が求められる仕事には、各自宅からの中間地点で集まるといった働き方も可能です。
ABWでは、オフィスから離れた場所で仕事をする場合は書類やデータをデジタル形式で持ち運ぶ必要があります。そのためABWを導入すると同時に業務のデジタル化も推進され、書類の印刷や保存にかかる時間が削減されるのも業務の効率化につながるでしょう。
3-2.柔軟な発想をしやすい環境を用意できる
ABWでは、執務デスクだけでなくカフェや図書館、屋外など多様な場所で業務に取り組めます。従来の固定席のように常に同じ環境・同じ顔触れとばかり接していると、人によっては視野が狭くなることもあるでしょう。
環境の変化やさまざまな視点からの意見は新たな刺激となり、柔軟な発想や創造的なアイディアのひらめきが期待できます。異なる部署や企業の人との偶発的なコミュニケーションも増えるため、新たなビジネスチャンスやマーケティングの着想も得られるでしょう。
3-3.多様な働き方に対応できる
在宅勤務やサテライトオフィスの利用などの、多様な働き方に対応できることも、ABWを導入するメリットです。従業員はワークライフバランスを実現しやすくなり、仕事と、育児や介護などとの両立もしやすくなります。これにより、従来であれば退職せざるを得なかったという人でも、仕事をつづけることが可能になり、従業員の定着にもつながり、従業員満足度の向上にも寄与します。
3-4.生産性がアップする
ABWはオフィスに限らず従業員が自ら働く場所を変えられるため、個々の個性・能力を生かした働き方を実現しやすいのが特徴です。主体性を重視する企業文化が構築されることによって、チーム・組織の潜在的な能力が発揮できる環境にもなるでしょう。その結果、従業員それぞれが最大限のパフォーマンスを発揮でき、生産性の向上が期待できます。
生産性は、設備や人、時間などの投入した資源に対して、どれだけの付加価値や成果を生み出せたかを意味する言葉です。ABWの導入によってその時々に合わせた柔軟な働き方ができれば、従業員の集中力や効率も上がりさらなる付加価値や成果を生み出せるでしょう。
3-5.ワークライフバランスを両立できる
ABWは従業員がそれぞれの生活にあわせた働き方を選択でき、ワークライフバランスを向上させる効果があります。ABWでは勤務場所を自由に選べるため、業務によってはオフィスへ出勤する必要がありません。通勤時間を削減できれば、その時間を家族との時間や趣味、スキルアップなどに充てられます。
また、育児や介護など私生活の負担が大きい人でも、在宅勤務や近くのサテライトオフィスを利用すれば負担を軽減しやすくなるでしょう。
3-6.従業員満足度が向上する
一般的に、自由度の高いワークスタイルを取り入れている企業は、従業員満足度が高い傾向にあるといわれています。ABWを導入すると、従業員の希望に沿った働き方を実現しやすくなるため、比例して従業員満足度の向上も期待できます。
3-7.優秀な人材を確保しやすい
従業員が働きやすい環境を整備し、社外にうまくアピールできれば、企業ブランディングとしても実を結びます。社外の人から「魅力のある企業」と判断されれば、優秀な人材が集まりやすくなります。また、ABWを実現すれば、場所に縛られずに人事活動ができるため、遠方の優秀な人材を採用することも可能となります。
3-8.コスト削減につながる
オフィス以外の場所で働ける環境を整備できればオフィスの縮小も可能になり、家賃や水道光熱費などのオフィスに関連するコストを削減できます。削減したコストを従業員の福利厚生などに還元することも検討できます。
4.ABWのデメリット
ABWを導入すると少なからずデメリットもあります。以下では、ABWのデメリットを解説します。
4-1.部下を管理しにくい
ABWを導入するデメリットは、部下の管理がしづらくなることです。自宅などのオフィス以外の場所で働く従業員が出てきた場合に、従来の管理方法では通用しなくなる可能性があります。部下の管理を徹底するためにも成果主義を導入し、時間や場所にとらわれずに、しっかりと成果を上げている従業員を評価できる体制を整備しましょう。所在や予定の確認ができるツールや、どこにいても連絡できるツールを導入することも必要です。
4-2.コミュニケーションがとりにくい
テレワークを選ぶ従業員が増えれば、従業員間のコミュニケーションが希薄になる可能性もあります。また、オフィス内でも特定のスペースに従業員が多く集まったり、スペースにより従業員の顔ぶれが固定化したりするなど、いつも同じ従業員が特定の場所に偏る状況を招いてしまうかもしれません。対策として、定期的に席をシャッフルするなどの工夫を取り入れる、そもそもABWを導入した会社の意図を従業員に浸透させる、ということも大切です。
4-3.従業員の自主性が不可欠
ABWを導入し、正しく効果を出すためには、従業員一人ひとりが自主性をもって業務に取り組む姿勢が求められます。従業員の意識が低いと、ABWを導入しても行動変容は期待できないでしょう。業務内容ごとにパフォーマンスが高くなる場所を、従業員自らが見極められるようになることが重要です。また、導入時に空間の活用方法についてのレクチャー動画やガイドブックを作成し、ポータルサイトに掲載するなど、最大限の効果を発揮するよう、会社側から従業員をサポートすることも効果的です。
4-4.社内整備にコスト・時間を要する
ABW導入には、社内整備に関わるコストや時間が必要です。まず、多様な作業スペースを設計して必要な設備や什器をそろえるなど、オフィス環境をABWに適した形に整備する必要があります。
また、従業員がABWのメリットや必要性を理解し、適切に活用できるようにするための教育にも時間と労力が必要です。さらに、分散した勤務スタイルを支えるための、ITツールやセキュリティ対策にも費用がかかります。長期的に見ればコスト削減に有効な働き方ではあるものの、導入には十分な準備とコストが必要な点を理解しておきましょう。
5.ABW導入の進め方は?手順・流れを解説
ABWの導入に当たっては、計画的に進めるのが成功の鍵となります。まず、現状のオフィスや働き方を理解することから始めてABW導入の目的を明確にし、オフィスレイアウトや既存の制度を見直して整備しなければなりません。
以下では、ABW導入をスムーズに進める流れを、4つのステップに分けて解説します。
5-1.オフィスや働き方の現況リサーチをする
ABW導入の第一歩として、現在のオフィス環境や働き方に関するリサーチを行いABW導入の可否と、その方針を決定します。従業員の意見をヒアリングし、現状のオフィスの使い勝手や働き方に関する課題とニーズを把握することが重要です。アンケートなどを用いて、現在のオフィスでの不便な点や改善希望、さらにはABW導入への意欲を確認しましょう。
自社の業務がそもそもABWに適しているかも、慎重に検討しなければなりません。固定メンバーが必要な業務や常に同じ場所にいる必要がある部署の場合、ABWの効果が限定的になることがあります。従業員の声を反映し、全員が働きやすい環境を実現するための基盤づくりがこのステップの目的です。
5-2.何のためにABWを導入するのか考える
ABWを導入する際には、目的を明確に定めることが重要です。社内コミュニケーション活性化の促進や自律的な働き方の実現など、企業によっても導入目的はさまざまです。ABWの導入により、現状のオフィスがかかえるどの課題を解決したいかを明確にしましょう。
目的が不明確なままABWを導入すると、従業員がABW型の働き方を実践する動機づけが難しくなり、結果的にABWが形骸化するリスクがあります。したがって、導入を検討する際には、企業として目指す姿や期待する効果を事前にしっかりと設定し、従業員と共有することがポイントです。実際にABWを導入している企業のオフィス空間を見学するのも、自社の課題抽出やイメージ形成に役立ちます。
5-3.ABW用スペースのレイアウトを決める
ABW用スペースのリニューアルに当たってレイアウトを決める際には、従業員の意見を反映しながら多様な働き方に対応できる設計が必要です。ABW導入の目的に基づき、必要なエリアをどのように配置するかを検討します。ABWの対象人数に応じて、オフィス内の座席数や個人ロッカーの必要台数なども調整しなければなりません。
オフィスづくりでは、1人用デスクやソファエリア、スタンディングエリアなど仕事の内容や気分に応じて選べる場所を設けるとよいでしょう。ミーティングスペースや集中ブース、休憩エリア、Webミーティング用のブースも考慮する必要があります。
また、単なる家具の配置だけでなく、電源の確保や動線、セキュリティも重要な要素です。効果的なレイアウトが分からない場合は、専門家へ相談してみてもよいでしょう。
5-4.既存制度の見直し・環境整備を行う
ABW導入に伴い、既存制度の見直しと環境整備が必要になります。まず、主体的に働く従業員の成果を評価する制度の用意が大切です。勤怠管理や人事評価の新ルールを構築し、従業員のワークスタイルにあわせた管理方法を導入しましょう。部下の様子が見えにくくなるため、マネジメント手法の見直しも求められます。
個人情報の扱いや、セキュリティ対策に関するルールの明文化と従業員教育も不可欠です。来客対応や電話対応、郵便物の取り扱いなどの社内ルールも再検討し、ルールブックを作成するとよいでしょう。
オフィス環境についても、デスクトップから持ち運び可能なノートパソコンやスマートフォン(スマホ)への変更、ネット環境の整備が必須です。リモートデスクトップやクラウドアプリケーションなどのシステム方式に関する整備も必要になります。チャットや社内SNS、Web会議システムなどのコミュニケーションツールの導入も検討しましょう。
6.働く場所としてサテライトオフィスも選択肢の1つ
ABWを導入すれば、社外で働くことも可能になります。自宅やカフェが比較的メジャーですが、サテライトオフィスも選択肢の1つです。ただし、サテライトオフィスを検討する場合は、別途準備が必要になります。
サテライトオフィスは自社で開設する専用型と、運営会社と契約する共用型に大別できます。それぞれの特徴は以下のとおりです。
専用型サテライトオフィス | |
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専用型サテライトオフィスは、自社の従業員のみが使用する施設として設置します。内装デザインや設備を自社のニーズにあわせてカスタマイズでき、高いセキュリティ環境の構築が可能です。また、コミュニケーション不足を解消し、従業員同士の連携を深める場として活用できます。 |
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留意点 |
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共用型サテライトオフィス | |
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共用型サテライトオフィスは、施設の運営会社と契約し、シェアオフィスやコワーキングスペースとして、複数の企業が共同で利用するスペースです。自社で一から設置するよりも手軽に導入でき、ほかの企業との交流を通じて新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もあります。 |
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留意点 |
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導入時には、それぞれのメリットとデメリットを考慮し、自社に最適な形態を選択することが大切です。
7.ABWを導入する際の注意点
ABWを導入する際に気をつけなければならない注意点を、以下で解説します。
7-1.ITツールなどの活用が必要
従業員が社内外のどこで働いている場合でも、必要に応じて社内の情報にアクセスできる環境の整備や、遠隔でもシームレスなコミュニケーションを可能にするWeb会議ツールやテキストチャットの活用が重要です。
また、タスクやスケジュールを管理し、誰がどこで何をしているかを見える化する機能も必要になるでしょう。ただし、これらは導入しただけでは終わりません。導入したITツールを従業員が使いこなせるように、指導し、浸透させなければなりません。
7-2.セキュリティ対策を考える
社外からも社内のイントラネットなどに安全にアクセスできるようにするには、セキュアな環境の整備が不可欠です。VPN構築や、オフィス外に持ち出す端末を管理するMDMなども導入し、テレワーク勤務の従業員がモバイルワークをすることで発生する、セキュリティリスクを軽減する対策が重要になります。万が一セキュリティのトラブルが発生した場合、金銭的な損害や、社会的信用の失墜という、企業へのダメージを与えかねないためです。
7-3.調査・分析を徹底する
ABWを導入する前に、社内で行われている業務や想定できる働き方の種類を従業員に調査しましょう。調査結果をもとに分析することで、従業員一人ひとりの生産性を最大化するための環境を、的確に見極められるようになります。また、現在の働き方やオフィスに関する従業員の考え・課題と感じている点を吸い上げ、新しいオフィス空間の構築に反映させるということもできます。
7-4.従業員間の信頼関係が重要
従業員同士が離れて業務を進めるため、信頼関係の構築が重要です。コミュニケーションを密に取り、上司はきめ細かいマネジメントを意識する必要があります。例えば、毎日グループ朝礼を行いメンバー全員で会話をする、1on1ミーティングを月に1度行い、部下の悩みや業務量、ミッションの進捗を確認するなど、接点をもつことを意識するとよいでしょう。
同じレイヤーの従業員同士でも、テキストチャットを使い、気軽なコミュニケーションを取るなど遠隔地にいても連携を取ることが重要です。
7-5.評価基準を見直す
どのような行動や姿勢が評価の対象になるのかを明確にするために、評価基準を見直すことも必要です。年功序列や能力主義ではなく、成果主義の側面を強くしましょう。例えば、目標管理制度を導入し、従業員自ら目標を設定させることも有効な手段です。
7-6.会社に対するエンゲージメントを高める
自宅などで仕事をすることが日常になると、会社への帰属意識が薄れ、エンゲージメントが下がる可能性があります。従業員のエンゲージメントを高めるには、会社の理念を浸透させる啓蒙活動を精力的に行うことや、ABWの導入目的と、従業員がどのように働く姿をゴールとしているかを従業員に説明して理解を求めるなどの工夫を施すことも大切です。
8.ABWの導入事例
ここでは、ABWの導入に成功した企業の導入事例を紹介します。参考にしてみてください。
8-1.株式会社OKAN
株式会社OKAN様はオフィスを一つの家に例えて、仕事内容にあわせたスペースを区切っていることが特徴です。気軽なミーティングができるスペースをDAIDOKORO(台所)と名付け、防音シートで囲われた電話スペースをDENWA(電話)としています。
それぞれのスペースに独自のコンセプトをもたせるのと同時に、従業員の自宅もオフィスの一部として考え、在宅勤務も自由に選択できる環境づくりに成功しています。
8-2.ヤンマー株式会社
ヤンマー株式会社様は、若年層の従業員の意見をもとに、オフィスをリニューアルしました。立ったままミーティングができるスペースの設置によって、会議の時間短縮につながりました。書類の管理システムの導入や個人ロッカーの設置などにより、個人が所有する書類が減り、ペーパーレス化にも成功しています。
また、共有スペースの居心地のよさを高めたことにより、従業員は自主的に共有スペースを活用するようになりました。結果的に、社内のコミュニケーションの活性化につながっています。
まとめ
ABWは、オフィスに加え自宅やカフェ、コワーキングスペースなど従業員自らが働きやすい場所を選択できるオランダ発祥の働き方です。ABWを導入すると、従業員個々の生産性の向上が期待できるほか、環境の変化によって柔軟な発想や創造的なアイデアのひらめきが期待できます。
ABWを導入する際は、まずはオフィスや働き方の現況のリサーチをして導入の可否と方針を決定しましょう。ABWの導入にあたってオフィスのレイアウトを変更するときは、従業員の意見を取り入れながら多様な働き方に対応できる設計にするのが重要です。
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