【南九州開催】セミナー&交流会 ~ICTで広がる生徒のまなび~|開催レポート(福岡雙葉中学校・高等学校編)
2022年12月9日宮崎市内のホテルにて、KDDIまとめてオフィス株式会社主催の学校さま向けセミナー・交流会を開催いたしました。
GIGAスクール構想やコロナ禍を背景に、2018年から一人一台端末の配備が進み、ICT教育は日本全国に広がりましたが、一部のエリアでは、一人一台のICT環境がまだ完全には整備されておらず、学校法人さまとお話しする中で、地域ごとに状況がさまざまであると感じていました。
文部科学省「令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」によると、一人一台端末が未配備かつ、この1年で急速に端末導入を進めているエリアの1つが宮崎県であったことから、まずこの宮崎県を中心とした南九州のエリアから、このようなセミナー・交流会を開催する運びとなりました。
参考:令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果
当日はICT教育に先進的に取り組まれている学校さまの実践事例をご紹介いただく講演タイムや、学校間の情報交換のための交流タイムを設けさせていただき、15校29名と多くの教職員の方々にご参加いただきました。
今回は本交流会の主な内容を前編・後編に分けてお届けいたします。
後編では、学校法人福岡雙葉学園 福岡雙葉中学校・高等学校 様の授業実践事例についてご紹介します。
登壇者プロフィール
登壇者
福岡雙葉中学校・高等学校
甲斐 恭平 教諭
学校法人福岡雙葉学園
中村 桂悟 様
【学校情報】
学校法人福岡雙葉学園 福岡雙葉中学校・高等学校 様
福岡県福岡市/私立/女子校/中高一貫教育/中学校約408名・高等学校約468名(2023年1月)
伝統あるカトリック学校で、福岡市唯一の幼・小・中・高の総合学園。世界に羽ばたくグローバルシティズンの育成に取り組まれています。英語教育に力を入れ、留学生や帰国子女が多く在籍していることも特色となっています。
学校:https://www.fukuokafutaba.ed.jp
学校だからできる教育とそれを支える活きたICT運用
当日は、甲斐教諭・中村様より以下の流れに沿ってお話しいただきました。記事の最後に、会当日の様子についてもご紹介しています。
目次
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ICT推進委員長 甲斐教諭による実践事例紹介
まず甲斐教諭より授業面での実践事例をご紹介いただき、生徒一人一台iPadを導入してから、どのように変化したのかを中心にお話いただきました。
甲斐教諭がアイスブレイクとして、会場に「ICT教育、正直どう思いますか?」と投げかけます。参加者は事前配布されたQRコードを自身のスマートフォンに取り込み、甲斐教諭の質問に対する回答を送信していきます。「難しい」「面白い」というコメントが特に大きくスクリーンに表示されました。
「このコメントが終了後、どう変わっていくかを見ていきましょう。」と講演に入っていきました。
ICT導入の経緯とコロナ禍で得られたもの
福岡雙葉学園では2019年1月に独立した分掌としてICT推進委員会を発足し、ICT機器の導入・利活用を推進してこられました。
2020年3月、あとは一人一台iPadを入学した生徒に配布するだけ、という段階で感染症が拡大し、全国一斉休校になってしまいます。
休校のさなか、福岡雙葉学園は「生徒の学びを止めてはいけない」という想いからYouTubeで授業動画を一般公開しました。
【導入事例】学びを止めないためにタブレットの活用が加速した (学校法人福岡雙葉学園様)
休校中、全教員が動画制作をしたことでノウハウがたまったのは、まさに"災い転じて福となす"でした。
また同年11月に全国ICT公開授業を実施。来校者は300名を超えました。
この公開授業を機に、さらなる全教職員のITリテラシー向上とICT授業ノウハウの展開がなされます。
結果としてICT整備が進むきっかけになったコロナ禍を通して得られたものについて、甲斐教諭は以下のようにまとめました。
"学校でしかできないことをしよう"をコンセプトにしている甲斐教諭は「学校に行かなくても学べることが分かったからこそ、学校に来ないと学べない、体験できない機会を作っていかなくてはいけない。」と考え直すきっかけになったことを振り返りました。
学生の姿からみる、ICTとの向き合い方
PISA調査の"学習のためのIT機器利用についてのアンケート"を投影し、日本とOECD国の位置関係を説明しました。
2009年から2018年の結果を比較すると、各国はどんどん利用率が上がっているのに対し、日本の変化はほぼないことが示されました。
このことを問題視しながらも、甲斐教諭はここで「ICTはただ使うのではなく、どう使うのかが大事。」と強調されました。
続けて4項目の意識調査の結果について、日本とOECDの生徒を比較し、以下のように考察が述べられました。
"日本の生徒はインターネットやSNSの情報は役に立たないと思いつつも、使用時間は長く、常にネット環境につながっていないと不安になる。"
なぜこの感覚に陥る生徒が多いのか、それは、これまでの日本の学校とIT機器との関係性に原因があると甲斐教諭は仮説立てします。
「2022年に15歳の生徒は生まれたときにiPhoneがあり、3歳にはiPadがあります。
そんな生徒から完全にスマホ・タブレットを引き離すのは無理があり、引き離すことで社会と学校で曲がった感覚が生まれてしまいます。使い方やリテラシーを伝授し、学習に用いることで"ICT機器は勉強に役立つものである"と教えることが学校の役割です。」と甲斐教諭は力説しました。
「学習×ICT」の可能性
では、教育・学習にITを掛け合わせることで何が起きるのでしょうか。
インターネットを使用すると、世界のあらゆる知識・情報に、生徒自身がアクセスできるようになります。
すなわち、生徒に教える知識として選定された"教科書"を"教員"が生徒に伝達する、という流れを飛び越える生徒が出てきます。
ITを授業に導入する3段階
ITを授業に導入する場合、以下のように3つの段階があります。
- ① 先生だけが使っている→ 先生の情報伝達率が上がる
- ② 授業の中で生徒に使わせる→ 先生がより効率的に授業できる
- ③ 生徒が自由に使う→ 生徒が主体的に学べる
③の例として"顕微鏡の接眼レンズにiPadのカメラをかざし、写真を撮る生徒"の写真を投影しました。自由にさせたからこそ、主体的に学ぼうとする生徒の姿がそこにはありました。
ICT導入を推進していくと「学力は上がるのか」という質問をよくいただく、と甲斐教諭は話しました。
「直接的には学力はあがりません。」としながらも、ICTを用いて時短・効率化をしたことによって生まれた時間に、別の取り組みを行うことで、間接的に学力が向上する可能性を例示しました。
工夫しだいでは、演習の時間や討論の時間を捻出できます。また、甲斐教諭は単元理解確認のために、生徒に3分ほどの動画作成を指示します。
実際に生徒が作成した動画を流しながら「問題集の○×よりも生徒の創造性や理解度がわかります。生徒の見えなかった部分が表面化され、評価観点が増えます。ICTはあくまでもツールであり、ただ使えばいいものではなく、何のために使うのかが大切です。」と重ねて強調しました。
"学校でしかできないことをしよう"
「100年後も200年後も学校が存在して『あの学校に行きたい』と思ってもらえるような組織であり続けたい。そのためにも生徒たちが主人公になり、生徒たちの価値観や目標をファシリテーションするのが学校の役割だと考えています。」とお話されました。
最後に甲斐教諭は「ICT教育、正直どう思いますか?」と会場内に再度投げかけました。
スクリーンには「楽しそう」「活用することで学びが広がる」「絶対必要」「ぜひ頑張りたい」と、開始前よりもポジティブな言葉が多く投影され、講演は締めくくられました。
法人事務室事務主任 中村様による実践事例紹介
続いて、福岡雙葉学園 法人事務室事務主任中村様より、多くのICT担当が悩まれる運用面の実践事例をお話いただきました。
ICT環境整備に必要な考えと進め方
「ICT環境を整備するうえで、まずは現状のICT環境の把握、そのあとに目標とする環境設備を考えることが大切です。」と参加者に語りかけました。
ICT担当に着任した中村様は、まずICT環境を以下構成要素に分解し、現状の把握を行いました。
そのうえでゴールとなる環境設定と照らし合わせ、何が必要なのかを洗い出しました。
その後、中村様は環境整備に向けて、大きく3つのことに取り組まれました。
① 導入事例の検索
② 商品の調査
③ 先進校の視察
とにかく導入事例を検索することでイメージをある程度固めていき、その段階で問い合わせをし、さらに商品の詳しい内容を確認していきました。そうすることで現状把握とゴール設定を明確にし、方向性を定めました。
またそのうえで、物を入れて終わりにさせず、"活きた形"を作っていくために、実際にICT機器を活用する現場へもアプローチしていきました。教職員を連れて先進校への視察、展示会への参加を積極的に行いました。
しかし、進めていく中で校内からは「上手く使っていけるのか?技術的なトラブルは誰が対応するのか?ICTインフラ構築のコストは無駄になってしまわないか?」など、さまざまな意見が出ました。これに対して「"不安の軽減"、"メリット訴求"、"投資判断情報の提供"を行い、関係者へのケアをすることが重要だ」と中村様は語りました。
「自分が教員ではないからこそ、リーディングしてくれる教員と視察を繰り返し、意見を吸い上げる機会を増やした。教員をぐっと引っ張っていく。現場外である管理者サイドからできる動きとしてはそれだけにつきました。」
合意形成がなかなか進まない中でも、将来のことを考え選択肢を狭めない。使えるサービスを多くしておく。という基本方針を決めておくことで、検討を進めることができたそうです。
活きたICT運用にするために
ICT環境(端末・機器など)と利用者(教職員・生徒)という関係図がある中で、「管理者としては枠外のことを考える必要がある。」と中村様はお話されました。
導入後の運用方法(端末制御、ID管理、個々人のデータ管理)についても、管理対象別にお話いただきました。
運用の仕組み(端末管理)
端末管理をすることで、初期化されても学校の設定に強制的に戻すことが可能です。トラブルでよくある盗難紛失についても、場所の特定機能や遠隔初期化で対応し、情報漏えいを防止することができます。
運用の仕組み(アプリ管理)
学校が一斉購入し、各端末に配信をします。学習に不必要なアプリは使わないように設定することができます。
ただし福岡雙葉高等学校については、生徒の主体性・創造性を育む自由な方針のため、Appストアを表示しています。
運用の仕組み(ID・クラス管理・データ置き場)
IDを管理することで、アプリやほかサービスへの反映や連携もスムーズに行うことができます。
またApple School Managerでは個人に200GB、Google Workspace ™ では組織に100TBのデータ置き場が用意されているため、写真や動画などを活用した取り組みも問題なく行えるようになっています。
運用の仕組み(iPadの破損)
破損は絶対に起きると考え、運用を行っています。修理中に生徒が使えないことを避けるために、貸出機の準備をしています。
最後に中村様より導入する際に大事にしていた考え方を共有いただきました。
6つの考えの中でも「"Involve:人と組織を巻き込む"が一番大事です。」と中村様は強調されました。
導入・推進をしっかりと進めていくために、法人として(管理者サイドの動きとして)は、ある程度の仕組みや形を作っていくことは可能であるが、うまく機能させていくためには、主体である教職員を巻き込むことが大事である。そのため、当初は管理職からトップダウンによって、教務や生徒指導等の主要な校務上の役職を担う教員を中心にチーム作りを進めてもらうよう働きかけました。「チーム作りができると、何らかの意見や動き、反応が出てくるので、そういったものを教員の視点でしっかり、中長期的に展開してもらうことが大事だった。」と中村様は振り返りました。
中村様は講演の中で"活きた形にするために"というキーワードを繰り返しました。導入するだけではいけない、それを上手く機能させて、活用できるようにするのが管理者の仕事の本質であることを、事例とともに伝えていただいた講演となりました。
当日の様子
実践事例発表後は5つのグループに分かれ、ディスカッションを行いました。
熱心に講演を聴かれる参加者の様子
意欲的にディスカッションを行う参加者の様子
登壇者の福岡雙葉学園 甲斐教諭、中村様、創成館高等学校 岩永教諭を交えて行われた交流会では、参加者の皆さまが積極的にお話をされておりました。
最後には、参加いただいた学校の中から「導入、未導入の学校からさまざまなお話を聞けました。学校に戻って新しいチャレンジをしたいです。(鵬翔高等学校様)」「色んなお話を聞けましたし、創成館高等学校様と福岡雙葉学園様のお話を聞けて本当によかったです。(宮崎学園中学校高等学校様)」というコメントをいただき、交流会は盛況のうちに終了しました。
KDDIまとめてオフィスでは地域ごとに拠点を置く企業として、地域の皆さまに寄り添い、引き続き各学校さまの課題を"まとめて"解決できるソリューションを提供していきます。
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。