はじめに
2022年度より「探究学習」の授業が本格的に始まりました。
昨年度までに先行実施を行う学校も多い中で、試行錯誤をされていた教育現場も多いのではないでしょうか。今回は「世界中の10代をインスパイアする」をミッションに教育現場や子どもたちの探究学習を支援している株式会社Inspire High様に、これまでの学びと探究学習との違いや探究のプロセスを効果的に実施していくための方法について、解説いただきます。
執筆協力
会社名:株式会社Inspire High
設 立:2019年11月
H P:
https://www.inspirehigh.com/
目次
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これまでの学びと探究学習との違い
現在、新学習指導要領では、小学校、中学校では「総合的な学習の時間」として、高校では「総合的な探究の時間」としてスタートし、探究的な学びが重視されています。
この探究学習は、中央教育審議会 の 答申によると「令和の日本型学校教育」として明言され、これまでの教育方針とは異なるものであることが明確にされています。これまでの教育とどのように異なるのでしょうか。
従来の日本型学校教育は、中央教育審議会 によると、全ての子どもたちに一定水準の教育を保障し、平等性の面で、全人教育ということを目指してきた、と明記されています。これは「みんな同じことができる」「言われたことができるようになる」ということを指します 。この教育自体は日本の高度経済成長を支え、OECDによる教育政策レビューにおいても成績の高さや全人的な教育として高く評価されていました。
中教審による「令和の日本型学校教育」の総論
https://www.mext.go.jp/content/20210329-mxt_syoto02-000012321_1.pdf
しかしながら時代は大きく動きました。ChatGPTが社会に絶大なインパクトもたらそうとしているように、AIやビッグデータ、ロボティクスなどの最先端技術はますます高度化し、あらゆる産業構造が変革する「Society5.0」時代が到来しつつあることは、一般の目にも明らかになってきています。時代に合わせ教育も、「知識を得る」学びから、「自ら考える」学びへとシフトしています。
「みんな同じことができる」ことの多くの部分をAIやロボットが代替できる時代において、「令和の日本型学校教育」が打ち出され、探究的な学びの重要性が飛躍的に高まってきた、というのが背景としてあります。
この探究的な学びで特に重視されているのが、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の2つの軸です。「みんな同じ」ではなく、一人ひとりの興味関心や能力に合わせて個別化された学びであること。そして、一人で完結するのではなく、集団で協力的にものごとに取り組めること。この2つの軸で協働的な学びが重要視されています。
いままで40人一斉かつ、知識伝達型の授業で進めていた教育方針とは打って変わって、40人それぞれの個性に合わせた個別最適な指導や、チームで一緒に進めるという協働性が求められるということで、学校現場ではその対応が喫緊の課題になっているのが現状です。
探究はプロセスが重要
この探究的な学びでもっとも重要視されるのは「学びのプロセス」です。「みんな同じことができる」という学びであれば、「結果」が重要です。数学を理解しているか、歴史年表を覚えているかの到達度が重要だからです。
しかしながら、探究的な学びにおいては、自分の興味関心が何なのか、自分の問題意識は何か、自分の将来の姿はどんなものか、という個々人のそれぞれでスタート地点が異なります。その上で、情報を収集・整理し、自身の考えを深め、その考えを他者に伝えるために表現する、というプロセスが重要になってきます。
これに関して学習指導要領では「探究のプロセス」として、次の4段階を設定しています。
- ① 課題の設定
- ② 情報の収集
- ③ 整理・分析
- ④ まとめ・表現
このプロセスに沿うことで、自ら学び、自ら考える力を育むという方針です。
参考:探究のプロセス(高校の学習指導要領より)
https://www.mext.go.jp/content/1407196_21_1_1_2.pdf
この4段階をベースに、各学校でオリジナルの探究カリキュラムを策定し、各社が教材を制作していますし、それぞれのステップに応じた教師側の指導方法が検討されています。答えを明示するのではなく、個別の学びが進んでいくようなコーチング 手法が求められることになります。
Inspire Highの学びのスタイル
私たちの「Inspire High」というサービスにおいても、この探究的な学びを支えるためにご活用いただくことが増えています。Inspire Highは、世界とつながる探究的な学びを、手軽に教室やオンラインで実践できるプログラムです。主に全国の中学校・高校で、総合的な探究・学習の時間やロングホームルームでのキャリア教育やSDGs学習、道徳、公共などで活用されています。
クリエイター、起業家、平和活動家など
世界各国の多様なガイドが自身の体験や生き方を伝える
動画コンテンツとワークショップツールが一体になったようなサービスで、1セッションが40分にパッケージングされており、「ガイドトーク」「アウトプット」「フィードバック」「リフレクション」という4つのステップで構成されています。現在では環境問題、自己理解、キャリア教育、SDGsなど、50本近いセッションが用意されており、学校の学びの方針に応じてご活用いただくことができます。
Inspire Highの4つのステップ
ガイドトーク
アーティストや起業家、平和活動家や詩人など、「ガイド」と呼ばれる多様な大人に映像を通して出会い、先進的でユニークな大人の考え方や生き方に触れ、刺激を受けることができます。
アウトプット
受け身ではなく能動的な学びを進めるために、ガイドからお題が提示され、生徒が自ら考え、自ら表現するためのパートです。たとえば「変えたい社会の風景はどんなもの?」「自分だけの問いとは?」「気候変動のためのムーブメントをどうつくる?」などがあります。
フィードバック
Inspire Highで特にユニークなのがフィードバックです。全国の10代が考えたアウトプットをオンラインでシェアし、匿名でお互いにコメントしあうことができます。生徒主体の学びを実践することができ、多様な他者への理解が促されます。
リフレクション
探究的な学びでも最も重要なリフレクションのパートも設けており、自身の学びや発見を振り返ることで、学びを深めることができます。蓄積したリフレクションの内容を活用して、自身の進路選択や職業選択にご活用いただけます。
生徒の多様なアウトプットを閲覧して、お互いにフィードバックを与えることができる
内化と外化を循環する探究の実践
探究学習はプロセスが重要でした。課題設定から、情報収集、整理、表現と進んでいくというフォーマットがあるものの、最初 に問題となるのは「課題設定」の部分です。そもそも社会のことや自分のことがわかっていないと、生徒が自ら「課題」を設定することは、なかなかできません。
特に従来型の教育に慣れている場合はなおさら、自身で課題を発見することよりも、与えられた課題に取り組むことのほうが得意になっています。したがって、探究学習と言ったときに、この最初のスタートでつまずいてしまう場合が多くあります。
ここでInspire Highをご活用いただくケースが増えてきています。
Inspire Highではすでに世界中のガイドによるトークが収録されていますので、それを見た上で、自身が考えたくなったこと、興味を持ったことを触発することができます。知識ゼロの状態で探究を始めることは難しいですが、戦争や貧困などの世界の現状、社会課題に向き合うガイドの生き方に触れることで、インスピレーションを得ることができ、自分なりの課題意識や興味関心を醸成することができます。
これは教育の分野では、「内化(インプット)」と「外化(アウトプット)」と呼ばれており、ゼロから考え始めるのではなく、まずはガイドトークを聞くという受動的な内化のプロセスを経ることで、アウトプットで自身の考えを外化することができます。さらにフィードバックでは他者のアイデアを参照することで内化しつつ、リフレクションでもう一度振り返りとして外化します。
この内化と外化をInspire Highのセッションを活用して繰り返すことによって、自身の興味関心を醸成し、アウトプットする訓練を積んでいくことになります。その上で、上記の探究のプロセスに入っていくことで、よりアクティブな状態で探究学習をスタートすることができます。
そこで、後編では実際にInspire Highを活用いただいている学校の実践事例をご紹介していきます。実際の活用法からぜひ探究的な学びへのヒントにしていただけますと幸いです。
KDDI まとめてオフィスでは、KDDIが長年培ってきた高品質でセキュアな通信を軸に、教育現場で役立つソリューションを提供しています。通信環境の整備から、ICT教育に必要なタブレット・パソコンなどの端末や教材も、ワンストップでご提供可能です。
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