【前編】「まなびのミライ in Hiroshima 2023」イベント開催レポート
2023年12月15日、「まなびのミライ in Hiroshima 2023」を開催した。東京で2回、そして宮崎に続き広島での開催となった第4回目は、中四国および九州地方を中心に34校41名の教職員の皆さまにご参加いただき、大変盛況となった。
前半は、ルーテル学院中学・高等学校 学校長 鶴山克郎教諭と、創成館高等学校 教頭 岩永光弘教諭にご講演いただいた。後半には近畿大学附属広島高等学校・中学校福山校の鳥生浩紀教諭と八王子実践中学高等学校の齋藤仁隆教諭にも加わっていただき、パネルディスカッションを行った。
当日の様子を前後編に分けてご紹介する。前編は、鶴山教諭の「既存環境を利用したゼロトラストへの取り組み」および、岩永教諭の「ICT活用実践事例の紹介」の様子をお届けする。
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講演1:既存環境を利用したゼロトラストへの取り組み
<講演者プロフィール>
学校法人九州ルーテル学院 ルーテル学院中学・高等学校 学校長
鶴山 克郎 教諭
ルーテル学院中学・高等学校は「感恩奉仕」をスクールモットーに掲げるキリスト教主義の学校。鶴山教諭は、過去は総務部長として入試実務、教務部長として成績処理のすべてを行っていた。校内LANの整備や教員のパソコン調達などIT環境の整備を推進し、2022年より校長を務めている。
★上記のリンクから、鶴山教諭へのインタビュー記事もご確認いただけます。
最初の講演は、「既存環境を利用したゼロトラストへの取り組み」をテーマに、ルーテル学院中学・高等学校 学校長 鶴山克郎教諭が登壇した。熊本地震や新型コロナウイルス感染症の流行など学校を取り巻く環境が大きく変わるなか、教職員のパソコン調達やセキュリティ対策に取り組み、2022年より校長となってからは校内のインターネット環境整備やゼロトラスト化※を推し進めてきた。
冒頭で鶴山教諭は、「セキュリティ対策を簡単に始めるなら、今ある環境をすべてリセットするほうが簡単」と前置きした上で、同校では既存環境を利用しながら対策を進めていると話した。「先生方が使い慣れた環境のままゼロトラストの環境に移行してきました。山を乗り切ればあとは楽になります」と語った。
※ ゼロトラスト...ネットワーク環境の校内・校外の区切りを「境界」と捉える考え方から、校内・校外どちらからのアクセスもすべて信用せずに安全性を検証し、セキュリティの脅威を防ぐという考え方。
授業プリントのペーパーレス化や電話対応の業務改善などを実行
まずは自身の経験として、顧問を務めていた弓道部の成績処理や入試業務における成績管理の実例を紹介。後任の教職員のためにもあえてExcelの基本的な関数だけで作成し、業務の簡易化に取り組んできた。
2018年度には「MetaMoJi ClassRoom」を導入し、授業プリントのペーパーレス化を実現。「これにより書くことが減ってしまったので、今は紙のプリントと併用してハイブリッド型の授業スタイルに戻った」と経緯を明かした。
今までに行ってきた業務改善事例をご紹介する鶴山教諭
遅刻・欠席連絡に「Google Forms」を導入し、朝の15分間に集中していた電話対応業務を改善。事務職員は入力された欠席連絡をまとめて担任に配信するだけでよく、保護者にとっても前日から入力できるため電話のつながりにくさが解消されたという。「毎朝15分、1週間にすれば1時間以上の時間短縮につながった」と報告した。
また、2年計画で予算を組んでいた教職員用パソコンの一括購入は、熊本地震を受けて予定を前倒しした。「職員も生徒も登校できないなかで、「MetaMoJi ClassRoom」を活用してどうにか授業ができないかと考えました」と、地震の経験と併せて語った。
2020年度には校内のWi-Fi環境整備計画を進め、2021年度にはKDDI まとめてオフィスと契約して生徒利用端末としてiPadを採用。3年目となる2023年度の成果として、「全生徒がiPadを所有し、教職員の分も含め約1,500台が常時インターネットにつながっています」と充実したIT環境を披露した。
ゼロトラスト実現に向けたセキュリティ環境の構築
一方、教職員の「慣れ」による負の側面もあった。共有NASへの個人情報の一時保存や、オンプレミス環境下ですべき成績処理をUSBメモリーに保存し個人端末を使い作業するといった行為が頻発したという。「先生方が考えなくてもいいようなセキュリティ環境を模索してきた」と続け、ゼロトラスト環境の実現に向けた動きを紹介した。
当時のITツールの導入状況としては、「MetaMoJi ClassRoom」のほか、「Google Workspace」や「Google Meet」、「Microsoft Teams」なども活用。WordやExcelなどは、「Microsoft 365」の教職員特典を利用して生徒分は無料で導入している。
セキュリティ担保の仕組みについて説明される鶴山教諭
「問題だったのが、オンプレミスサーバーによる教務成績処理と、NASによる教職員間のデータ共有の際に、ルールが徹底されないことやうっかりにより、データ流出や個人情報の漏えいが発生してしまうリスクでした」と当時の悩みを打ち明けた。複数のツールを検討し、フルクラウド統合型校務支援システム「BLEND」を導入。「入試・教務・進路と、入学から卒業まで一貫してデータを活用できるのが魅力」とそのメリットを語り、2023年度から利用を開始したWeb出願についても紹介した。準備期間はわずか3カ月だったが、入力・確認の手間が省けるため入試業務がかなり効率化できたという。次年度は教務データや保健室、保護者通信なども「BLEND」へ移行する予定だ。
「最終的には先生方のモラルの育成に尽きます。セキュリティ環境が整備されているとはいえ、パスワードの管理不備やメールの誤送信などは起こり得る。最後の砦はヒューマンエラーをなくすこと」と締めくくり、降壇した。
講演2:ICT活用実践事例の紹介
<講演者プロフィール>
学校法人奥田学園 創成館高等学校 教頭
岩永 光弘 教諭
創成館高等学校は長崎県にある私立高等学校で、野球部は甲子園に通算7回出場、サッカー部は全国高校サッカー選手権に出場している。加えて、大阪大学にも現役合格者を出すなど、スポーツ・進学ともに実績がある。岩永教諭は、アクティブラーニングの導入やICT活用など学校の仕組みづくりを先導してきた。
★ 宮崎で開催されたイベントでのご講演の様子も上記のリンクからご確認いただけます。
続いて「ICT活用実践事例の紹介」をテーマに、創成館高等学校 教頭 岩永光弘教諭に登壇いただいた。同校の情報教育は36年目に突入し、平成2年からパソコンを導入するなど時代に先駆けて情報教育に投資を行ってきた。失敗事例も明かしつつ、平成31年にiPadセルラーモデルを導入したことで「新型コロナウイルス感染症の流行下でも学びを止めることなく、全生徒1人1台のiPadでオンライン授業ができた」と成果を語った。
GIGAスクール構想と実際の教育現場の乖離
冒頭で、岩永教諭は生成系AI活用に対する文部科学省の見解として、グループワークや英会話の練習相手などの活用例を紹介。一方、教育現場からは「思考力や技術力が育たなくなるのではないか」「そもそも何ができるかよく分からない」「情報漏えいやハルシネーション※、著作権侵害が心配」などの声が上がっていると付け加えた。
過去、日本企業は競争力があり世界企業資産価値ランキング上位50社に32社入っていたものが、2023年は1社もランクインせず、上位にはアメリカのテクノロジー企業が名を連ねている。そんな背景もあり、文部科学省では今、生成AIを使いこなす力を持つ子どもを育てようとしているという。同氏は「それでも教育現場ではわからないから使えない。いままでと同じように教えたほうがよいという声があるのは事実」と状況を紹介。さらにGIGAスクール構想について、「児童生徒向けの1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく......」と理念を引用した。しかし、実際には家庭でのWi-Fi普及率は89%にとどまっているのが現状だ(令和2年度総務省調べ)。「Global and Innovation Gateway for All(すべての児童生徒のための世界につながる革新的な扉)」であるにもかかわらず、一部の生徒を取りこぼしてしまっていることに警鐘を鳴らした。
※ ハルシネーション...AIが事実に基づかない情報を生成する現象
GIGAスクール構想について改めて解説する岩永教諭
創成館高等学校におけるICT活用実践事例
続いて、同校で使用している授業支援アプリを紹介した。課題の配信・提出やテスト、HR連絡などには「ロイロノート・スクール」を導入。教材の配布・回収や生徒の理解度の確認、生徒総会のアンケート機能にも役立てている。また、「ロイロノート・スクール」のWebフィルター機能でほかのブラウザを排除し、学校が渡した端末でSNS上のトラブルが起こらないようにしていると話した。
授業配信には「スタディサプリ」、記憶力定着には「Monoxer」も活用。「Classi」については、「教員が教材を作らなくても単元定着トレーニングができ、AI分析によって生徒個人に合わせた問題を配信できます。生徒ごとのカルテは全職員が閲覧でき、悩みなども共有しやすいです」と使用感を語った。年間の利用料は、副教材費として集めて運用しているという。
部活動試合の分析には「SPLYZA Teams」を、部活動のミーティングや公欠・欠席時の授業配信には「Zoom」や「YouTube」などを導入している。「Zoom」と「OBS Studio」を組み合わせて、「起立性調節障害で朝登校できない生徒にも対応できる」と具体的な活用事例も明かした。セキュリティ対策としては「KDDI Smart Mobile Safety Manager」を導入し、アプリの一括配信や生徒のアプリ管理、パスワード忘れの対応などを行っている。
現在導入しているツールは全21個で、必要に応じて随時更新している。同校でも、来年度から「BLEND」を本格導入予定だという。
参加者のみなさまとコミュニケーションをとる岩永教諭
最後に、冬の選手権に初出場した際のサッカー部の事例を動画で紹介した。新型コロナウイルス感染症の流行で部活動ができないなかでも「Zoom」でミーティングを重ね、結束力を高められたという。同氏は「生徒全員が1人1台端末を使えるような状態にしておくと未来が広がる」と熱く語り、「使い方次第で、ただの鉄の板にも最高のツールにもなる。それは我々教職員の手にかかっている」と締めくくった。
後編では、パネルディスカッションの様子をお届けする。
最後に
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※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。