【後編】「まなびのミライ in Hiroshima 2023」イベント開催レポート
2023年12月15日に開催された「まなびのミライ in Hiroshima 2023」。前編では、ルーテル学院中学・高等学校 鶴山克郎教諭および創成館高等学校 岩永光弘教諭のご講演の様子をお届けした。後編は、近畿大学附属広島高等学校・中学校福山校の鳥生浩紀教諭と八王子実践中学高等学校の齋藤仁隆教諭に加わっていただき大盛況となった、パネルディスカッションの様子をお送りする。
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はじめに
<パネラープロフィール>
会場で自己紹介をされる鳥生教諭
学校法人近畿大学 近畿大学附属広島高等学校・中学校福山校
鳥生 浩紀 教諭
広島県福山市にある近畿大学附属広島高等学校・中学校福山校は近畿大学の附属校のひとつ。鳥生教諭の担当教科は数学で、教務部長とICT担当を務める。2020年からGoogle for Education 認定トレーナーとしてGEG Hiroshima City 共同リーダーおよび中四国地区メンター、2022年度からはAdobe Education Leaderを務めている。
学校HP:https://www.fukuyama.kindai.ac.jp/
東京からオンラインにて参加された齋藤教諭
学校法人矢野学園 八王子実践中学校高等学校
齋藤 仁隆 教諭
東京都八王子市にある八王子実践中学高等学校は女子バレーボール部強豪校で、近年は進学実績にも力を入れている。今回オンラインでの参加となった齋藤教諭は、数研出版の「数研通信」に寄稿するほか、東京私立中学高等学校協会の東京私学教育研究所主催教務研修にも参加。Apple Teacherの認定資格も有しており、同校のICT担当を務める。
学校HP:https://hachioji-jissen.ac.jp/
★ ルーテル学院中学・高等学校 鶴山教諭および創成館高等学校 岩永教諭のプロフィールについてはこちら
来場前に行った参加者アンケートの回答をもとに、2つのテーマについて順次ディスカッションを行った。
パネルディスカッション「ICT活用による生徒の学習方法や姿勢の変化」
1つ目のテーマでは、まず鶴山教諭が授業のペーパーレス化に成功した事例を紹介。「MetaMoJi ClassRoom」によって、紙で資料を配布する授業で多発していた生徒の紛失や忘れ物がなくなった」と話した。生徒全員の理解度をモニタリングできる機能や自動採点されるテスト機能などに触れた上で、「生徒も事前に配信される教材をもとに準備ができる。全教科のノートがiPadひとつに収まるのでモノの持ち運びが少ない」と、生徒にとってのメリットも挙げた。
加えて、生徒とのコミュニケーションについて「MetaMoJi ClassRoom」の共有ボックス機能の活用を紹介。「各教員が作成権限を持っており、管理者含めてほかの人から見えない設定が可能なため、なかなか学校に来られない生徒と担任がコミュニケーションを取れるようになり、細やかなフォローにつながっている」という。ICT活用を進めるとついて回る端末の破損に関しては、「KDDI まとめてオフィスが提供している、破損時に無料保証してもらえるサービスで対応し、明らかに意図的に壊している場合は保護者と相談している」と補足した。
齋藤教諭は通信速度の速さを挙げた。「教員同士の連携やPDFのダウンロードなど、授業に必要なことが『ロイロノート・スクール』でシームレスに行える。また英会話の授業でフィリピンと通信するときも、リアルタイムに会話ができる」と実際の使用感を紹介した。通信時間の短縮により生み出された時間を活用することで生徒と教員の距離が近づいたといい、「今までケアできなかった生徒にかけられる時間が増えたことは、ものすごい宝物」と熱く語った。
ICT活用の事例を紹介する鶴山教諭と耳を傾ける岩永教諭
続いて、話題は授業の妨げとなる機能に制限をかけるかどうかに移った。齋藤教諭は「制限をかけないことで、生徒は『自分の特別な端末だ』という自覚を持つ。それにより破損や貸し借りなどのトラブルが減った」と話した。必要最小限、ゲームアプリなどを入れられないようにロックし、フィルタリングサービスである「ISGC(InterSafe GatewayConnection)」を導入してショッピングサイトやSNS、アダルト、犯罪行為に関するサイトの制限はかけているとのこと。その上で「YouTubeの制限はかけていない。授業中の閲覧は問題だが、生徒にサボらせない魅力的な授業をするよう教職員全体で共有している」と、授業内容を充実させることの重要性を語った。
一方、制限をかけている学校の意見も挙がった。岩永教諭は「本校も最初はあまり禁止せずに使わせていたが、教員からはクレームも多かった」と悩みを明かした。鶴山教諭もまた、「『ISGC』を導入し、生徒たちが漫画閲覧サイトを使っているという情報が入ればブロックしている」と実際の対応を紹介しつつ、「抜け道はいくらでもある。そこに労力をかけるよりも、自分たちでしっかり管理した方がいい、もっと集中させられるような授業を提供すればいいという方向に教職員の意識が変わってきており、いずれは極力制限をかけない形を目指したい」と語った。ただ、制限で助かった事例もあるとし、「犯罪でランダムに電話番号が利用された場合でも、『ISGC』で管理しているため生徒を守ることができた」と最低限の制限は生徒を守ることになるとも続けた。
鳥生教諭は、「漫画や動画など、違法にアップロードされた著作物を悪意なく閲覧してしまうケースがあります。学校で使用する端末だからダメという認識では、個人の端末でも同じことをしてしまいます。単純に怒ったり叱ったりするのではなく、『なぜダメなのか』を説明し、子どもたちが考えるきっかけにすることが必要だと思います。」と、指導の機会と捉えていることを話した。
パネルディスカッション「生成AIの導入と活用について」
2つ目は生成AIをどのように授業に活用すべきか、というテーマだが、そもそも学校教育に導入していいかどうか悩む学校も多いようだ。冒頭で鳥生教諭が「『ChatGPT』などの生成AIを使っている方はいますか?」と質問すると、会場では多くの手が挙がった。
鳥生教諭の質問に対して挙手する参加者のみなさま
「昨年は生成AI元年だった」と鳥生教諭は切り出し、「Stable Diffusion」や「Midjourney」などの画像生成AI、「ChatGPT」のリリースなどを振り返った。「教員の校務においては、授業のアイデア出しに活用。授業のアクティビティを提案してもらい、導入した」とする一方で、生徒の使用については手をこまねいていたと当時の苦慮を思い起こしながら語った。「高校生には事前にアナウンスし、保護者の承諾を得て夏休み明けから導入した」とのこと。承諾されない保護者の方も少数いたが、現在では使用する生徒が増えてきているという。
授業での導入事例も3例紹介した。社会科では調べ学習の一環として「ChatGPT」から得られた回答とインターネットで調べた日本語版・英語版の解説、教科書の内容、それぞれの違いを比べ、さらに考察していくことに活用している。英語科では英検対策として生徒が回答した英作文をCEFR※のレベルに合わせて修正したり、iPadの対話機能と組み合わせたりして、英語面接も含む大学入試の面接試験対策としても活用しているという。同氏は「生徒が自由に使える状態を用意し、『好きにやってみな』ということが絶対必要」と付け加えた。
※ CEFR...欧州評議会(Council of Europe)が示す、外国語の学習や教授等のためのヨーロッパ共通参照枠。
参考:https://www.mext.go.jp/content/000025257.pdf
続いて、岩永教諭は「ルーティン業務をオートメーション化してくれるので便利」と、教員にとっての業務効率化をメリットとして挙げた。また、先日発表されたGoogleのAI「Gemini」を挙げ、「(生成AIを導入するかしないかという)この論争をやめた方がいいレベル。我々がどういう姿勢で生徒やICTに臨むのかを考えないとどんどん置いていかれます」と危機感を募らせた。
鶴山教諭は校長という立場から、教職員には「出てきた情報を鵜呑みにせず、情報収集ツールの一つと考え、新しい発見があれば自分で調べ、昇華させて使ってほしい」と伝えているという。Windows®もシステムが生成AI化されてきているため、知らないうちに生成AIに触れている認識も持ってほしいと見解を述べた。
齋藤教諭からは東京私学教育研究所の会合で耳にした話も上がり、多くの学校が生成AIの導入に向けて積極的に動けていない現状が明らかとなった。先ほど会場内で生成AIを使用しているかどうかの質問に多くの手が挙がったことに触れ、「広島はすごく進んでいると感じた。本校も東京全体もまだ遅れている。ICTの使い方はもちろん、教育成果につながっているかの検証が、本校における一番の課題」と話した。
鳥生教諭は、「端末を配布するときに新入生を対象として行う説明会では、『AIに負けない人間になろう』ではなく『AIをうまく活用して一緒に生きていく』と話しています」と、AIへの向き合い方について語った。そして、「本校で好きなことや専門性を見つけて、そこにAIを活用する力が身につけば鬼に金棒。AIと戦う時代は終わりました」と付け加えた。
生成AIの活用事例を紹介する鳥生教諭
最後に岩永教諭が「AIがどんなに発達しても、僕ら教員には『愛』がある」と会場の笑いを誘い、パネルディスカッションは盛況のまま幕を閉じた。
最後に
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