建設業界では深刻な人手不足が問題になっており、1990年代後半のピーク時と比べて3割近く業界人口は減少しています。
出典:日本建設業連合会:「建設業デジタルハンドブック 4. 建設労働」
今後建設業界の各企業が存続していくためには、若い世代が魅力を感じる職場に自社を変革させる必要があります。しかし、入職者側との間に考え方のギャップを抱えている経営者も見られるように、現在もまだ人手不足解消への有効な手が打てていない方も多いでしょう。
この記事では、建設業界の人手不足の現状や、人手不足が起こる理由、各企業ができる人手不足対策について解説します。
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1. 建設業界の人手不足の現状
日本建設業連合会が公表したデータによると、建設業就業者数は平成9年の685万人をピークに年々減少していることが分かります。2023年はピーク時比70.5%の483万人まで減少し、うち建設技能者はピーク時(1997年464万人)比66.2%の307万人と著しく人数を減らしています。
出典:日本建設業連合会:「建設業デジタルハンドブック 4. 建設労働」
東京商工リサーチが2024年に実施したアンケートでは、建設業で正社員が「不足している」または「やや不足している」と答えた企業は、全体の69.3%を占めました。アンケート結果から、建設業界の人手不足は深刻であると言えるでしょう。
出典:東京商工リサーチ「「人手不足」企業、69.3%で前年よりも悪化 建設業は8割超が「正社員不足」で対策急務」
また、2023年には建設業の労働人口のうち55歳以上の就業者が約36%、29歳以下は約12%となっており、建設業界では人手不足だけでなく高齢化も進んでいます。
出典:日本建設業連合会:「建設業デジタルハンドブック 4. 建設労働」
1-1. 建設業界の2025年問題とは
建設業界の2025年問題とは、2025年に75歳以上の後期高齢者の人口割合が急増し、建設会社の退職者が多くなり、今以上に深刻な人手不足に陥ることです。
2025年には、後期高齢者の人口が約3,500万人に達すると予想されています。2021年4月に改正された高年齢者雇用安定法によって、多くの企業で定年が65歳までに引き延ばされました。それでも、2025年に退職となる就業者が多くなると予想できます。
高齢化が進んでいる現状からも、多くのベテラン層が退職した後に新たな人材を確保しにくいと考えられます。高齢者による退職と若手の人材不足が重なり、人手不足が原因で廃業に追い込まれる企業も多くなるでしょう。
出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法改正の概要~70歳までの就業機会の確保のために事業主が講ずるべき措置(努力義務)等について~」
2. 建設業界が人手不足になる理由
建設業界が人手不足になるのには、従業員の高齢化以外にも業界特有の事情があります。例えば、建設業界は雇用が不安定かつ長時間労働が常態化している3Kの職場というイメージがいまだ強く、敬遠されがちなのも理由の1つです。
また、建設業界が人手不足になるのは、業界イメージ以外にも以下のような理由があります。
2-1. 入職者と経営側の考え方にギャップが大きい
建設業界で若者が増えない理由の1つは、入職者と経営側の考え方にギャップがあるためです。
国土交通省が公表したデータによると、建設業離職者が仕事を辞めた理由で多かったのが「雇用が不安定である」「将来のキャリアアップの道筋が描けない」などです。また、「遠方の作業場が多い」という、移動に無駄な時間を使う業界の在り方を辞めた理由として挙げる離職者も存在します。
一方、建設業者が考える若年層の離職理由は、「作業がきつい」「労働者の職業意識が低い」などが挙げられました。
出典:国土交通省「建設業の働き方として目指していくべき方向性(参考資料)
入職者側には、より安定的な雇用のもとで効率的に働き、スキルアップやキャリアアップのために有効に時間を使いたいニーズがあると言えます。対して、雇用者側は作業の肉体的負荷の軽減を目指しているギャップから、若年層の人手不足が進んでいる可能性が高いでしょう。
したがって、若年層の雇用改善のためには、業務の効率化によりスキルアップ・キャリアアップの時間を作り、雇用を安定化させるのが重要です。
2-2. 建設需要が拡大している
建設業界の人手が減っているのに対して、建設工事の需要が年々拡大しているのも人手不足の原因です。
国土交通省が公表したデータによると、2015年頃から建設投資額は右肩上がりに上昇しており、2023年には過去最大となる70兆円を超える見通しです。建設投資額の内訳は、政府投資25兆3,400億円、民間投資44兆9,800億円となっており、民間の建設需要が高いことが分かります。
今後も建設需要は高まると予想されており、需要と供給のバランスが崩れる可能性があります。作業員1人あたりの業務量が増加し、長時間労働が常態化すれば、ますます建設業界に就職する人が減少すると考えられるでしょう。
2-3. 業務効率化が進んでいない
建設業界が人手不足になる理由の1つに、業務の効率化が進んでいないことが挙げられます。
建設業界全体で業務効率が悪い原因は、アナログ作業の多さです。たとえば、工事の指示書やスケジュールの共有にFAXが利用されていたり、従業員の勤怠をタイムカードで管理していたりするなど、アナログな工程がよくみられるのが建設業界の特徴と言えます。
仕事に関する情報はすべて事業所に集約されているため、遠方の建設現場で作業する日にも一度事業所に立ち寄ってから作業を開始するケースも少なくありません。一方で、現場確認作業が必要なため、複数の現場を回るのに時間を取られます。現場に行く前に事業所へ立ち寄る手間や、離れた現場へ監督に向かう移動時間を負担に感じている人も多いでしょう。
また、建設業界は受注から施工、竣工までさまざまな書類を取り扱う必要があり、他業界より事務作業が多いとされます。
事務作業の多さによって生産性が下がると、作業員1人の負担が大きくなります。業務効率化が進んでいないと、若者離れの原因となる可能性も高まるでしょう。
3. 建設業界の各企業ができる人手不足対策
建設業界の人手不足に対して、国はさまざまな取り組みを行っています。しかし、国に任せるだけでは、人手不足の根本の解決は難しいでしょう。企業でも独自の解決策を考え、実行していくことが大切です。
以下では、各企業ができる人手不足の対策を紹介します。現在人手不足で悩んでいる企業は、ぜひ参考にしてみてください。
3-1. 働き方改革の推進
建設業界は、特別な事情がある場合には時間外労働の延長が可能で、残業に関する規定が緩い職種でした。しかし、2024年4月からは他業種と同様に時間外労働の上限規制が適用され、月45時間以内かつ年360時間以内での残業上限が設定されています。
また、臨時的に残業時間の上限を超えた場合の規制は、以下のとおりです。
- 1カ月45時間を超える残業は年間6回まで
- 残業時間の上限は年間720時間まで
- 休日労働時間と時間外労働の合計は1カ月100時間未満
- 休日労働時間と時間外労働の合計は2~6カ月で平均して80時間以内
ほかにも、国土交通省では国が直接管轄する工事について、週休2日制を原則としています。休日や残業時間を適切に設定すると労働環境が改善し、離職率の低下につながります。
ただし、週休2日制と伝えた場合、毎週必ず2日休暇が取れると思う求職者もいる点に注意してください。実際は隔週で2日休みがある、月に1度2日休みがある、という場合もあるでしょう。入社後トラブルにならないよう、求職者には事前のフォローをしっかりと行うのが大切です。
3-2. 待遇の改善
建設業界の人手不足を解消するためには、従業員の待遇の改善が必要です。給与面では給与水準を明確にし、昇給制度について従業員に説明することをおすすめします。給与や福利厚生などの待遇改善をアピールすると、建設業のイメージアップにつながり、新たな従業員を獲得しやすくなります。
単に給与面の待遇を改善するだけでなく、スキルアップ・キャリアアップの道筋を作るのも重要です。アナログに頼った事務作業や、移動による待ち時間などの無駄な業務を効率化し、空いた時間をスキルアップに充てられるようにすれば、自社人材の能力を開発できます。若い世代の人材への訴求力も上がるでしょう。
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3-3. ICT化・DXの推進
建設業界でのICT化とは、これまでアナログ作業だった事務作業や勤怠管理、調査・設計などにICTを取り入れ、業務効率化を図ることです。
建設業界の業務にICTを取り入れた実例は、以下のとおりです。
- クラウドシステムでの情報共有や資料の整理
- 危険予知ツールを利用して、従業員の安全管理
- ビデオ会話システムで打ち合わせを行い、現場間の移動時間の削減
- WEBカメラを活用した施工管理
建設業界でのICTの導入は、作業時間の短縮や生産性向上などのさまざまなメリットがあります。作業員一人ひとりの作業負担も軽減できるため、人材育成の時間を確保でき、後継者を育てやすくなるでしょう。
まとめ
建設業界が人手不足になる原因の1つに、入職者側の安定的な雇用や将来性、業務効率化のニーズに経営者側が応えられていない点があります。業界の高齢化が進む中で、若い世代の人材確保は解決すべき必須の課題です。働き方改革を推進し、待遇を改善するだけでなく、スキルアップやキャリアアップに使える時間の確保が求められています。
建設業界にはデジタル化が進んでいない各種事務書類や、チェックのためだけに遠方の現場まで移動する時間など、効率化できる業務項目が複数あります。まずは現在の業務を洗い出して、効率化ができるものを洗い出すことから始めませんか?
デジタル化を実現することは、少人数でも効率的にスピード感を持って業務を回せる体制をつくるだけでなく、若い世代が魅力を感じる職場へと自社を変革するキッカケにもなるでしょう。
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