自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)は、従来の紙ベースの手続きや行政業務をデジタル化し、住民サービスの向上や業務の効率化を目指す取り組みです。日本国内でも、行政サービスの迅速化やコスト削減が求められています。デジタル技術の導入により、住民の利便性が大幅に向上するだけでなく、蓄積されたデータの有効活用も可能となります。
当記事では、自治体DXの重要性や具体的な取り組みについて詳しく解説し、これからの自治体が直面する課題とその解決策を紹介します。
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1. 自治体DXはなぜ必要?
自治体DXとは、自治体のアナログな体制を見直し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることです。
自治体はもともと紙の書類を扱うことが多く、現在においてもさまざまな行政手続きが紙で行われています。しかし、紙は保管やデータ活用に多くのコストがかかるため、非効率な組織体制が課題となっていました。
自治体DXは、DXによって下記の目的達成を目指します。
- 住民の利便性を高める
紙で行われていた制度申請のデジタル化などにより、地域住民が行政サービスをより利用しやすくなる環境を構築します。 - 行政サービスを向上させる
デジタル技術の活用によって人的負担の軽減や自治体業務の改善・効率化を図り、浮いた人的リソースをコア業務に回すことで行政サービスの向上につなげます。 - 蓄積したデータを活用する
自治体に蓄積されている膨大なデータを活用して、行政自体の効率化・高度化や、民間との連携による新たな価値の創出を目指します。
利便性の向上や業務効率化は自治体の職員と住民の双方にメリットがあります。自治体DXの目的が達成されることで効率的な組織運営ができ、自治体の体制はより良いものとなるでしょう。
出典:総務省「地域におけるデジタル・トランスフォーメーション」
2. 自治体DXでの取り組み
総務省は自治体DXで取り組んだほうがよい事柄を定めています。自治体DXを進める際は、総務省が定めている事柄を把握することが大切です。
以下では、自治体DXで取り組むべき事柄を7つ紹介します。
出典:総務省「地域におけるデジタル・トランスフォーメーション」
2-1. フロントヤード改革
フロントヤード改革とは、住民と行政との接点(フロントヤード)について改革を進めることです。
具体的には、電子申請システムの整備によるオンライン化や、ワンストップ窓口などによる「書かない」「迷わない」窓口の仕組みづくりが該当します。これにより、住民は煩雑な手続きを簡素化され、迅速にサービスを受けられるようになります。
近年は住民の生活スタイルや行政へのニーズが多様化しており、行政は資源を効率的に活用しながら、住民サービスを向上させることが求められている状況です。特に高齢者や障害者、子育て中の家族など、特定のニーズを持つ住民に対して配慮したサービスを提供することが強く求められています。
フロントヤード改革は職員業務の負担軽減を図りつつ、住民サービスの向上もできる取り組みとして注目されています。デジタル技術を活用することでデータを収集・分析し、住民のニーズに応じたサービスの改善や新たなサービスの創出を可能とするこのアプローチは、行政の透明性や信頼性を高めることにも寄与します。
出典:総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第 3.0 版】」
2-2. 自治体システムの標準化・共通化
自治体システムの標準化・共通化とは、自治体が使用する情報システムについて、標準化基準を満たすシステム(標準準拠システム)への移行を目指す取り組みです。
従来、自治体が使用する情報システムは自治体ごとにカスタマイズがされていて、自治体間のデータ連携やクラウドによる共同利用が行いにくい構造となっていました。
情報システムの課題に対し、総務省・デジタル庁は自治体システムの標準化・共通化を進めています。2021年には「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」を施行し、20の標準化対象業務について標準準拠システムの利用を義務付けました。この法律は、自治体が効率的かつ正確に情報を管理し、住民により良いサービスを提供するための重要なステップといえます。
総務省・デジタル庁は2025年度までに標準準拠システムへの円滑な移行を目指しており、自治体は標準準拠システムへの対応が必要となります。自治体システムの標準化・共通化が進めば、自治体間のデータ連携が容易になり、自治体業務の効率化と透明性向上も期待されます。また、自治体をまたいだ共同サービスの提供や災害時の情報共有スピードの加速が可能となるなど、最終的には住民サービスの向上につながることが目指されています。
2-3. マイナンバー制度
マイナンバー制度は日本国民一人ひとりに割り振った固有の番号を活用して、行政の効率化と国民の利便性向上を目指す制度です。
総務省は、国民の行政手続きについてマイナンバーカードを用いたオンライン手続きの整備を進めており、自治体に対してもシステム改修等の支援を行っています。
マイナンバーカードの利活用は将来的に広がると考えられているため、自治体はマイナンバーを活用した取り組みづくりを進める必要があるでしょう。
2-4. AI・RPAの推進
AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用し、自治体の各種業務を効率化する取り組みです。
例としてはチャットボットでの問い合わせ対応や音声認識による議事録作成、RPAツールによる住民情報の管理、窓口対応のサポートなどが挙げられます。これにより、業務の迅速化と正確性の向上が期待されます。
日本は少子高齢化が進行しており、自治体の職員数も減少傾向にある状況です。限られた人材で公共サービスを将来的にも維持する方法の一つとして、AI・RPAの活用が推進されています。
出典:総務省「支援メニュー」
AI・RPAの導入は、職員の業務負担を軽減するのみならず、住民へ提供されるサービスの向上にも寄与します。例えばAIを活用したデータ分析によって自治体が住民のニーズを把握しやすくなることで、より住民に適切なサービスを提供できるようになります。また、RPAによる定型業務の自動化が実現すれば、職員は高度な業務や住民への対応に集中できる環境となり、自治体としての質の向上にもつながるでしょう。
2-5. 公金納付のデジタル化
公金納付のデジタル化は、地方税以外の公金納付について、eLTAX(地方税ポータルシステム)を活用した納付が行えるようにする取り組みです。
従来的な自治体の公金納付への対応では、紙の領収済通知書と口座の入金情報を突き合わせて確認し、消込処理をするという作業が行われています。eLTAXでは納付情報や入金情報が電子的に送付されるため、消込作業を効率化することが可能です。
公金納付のデジタル化は住民にとっても納付手段が統一されるメリットがあり、住民サービスの向上につながります。
出典:総務省「地方公共団体への公金納付のデジタル化に向けた取組の実施方針について」
出典:内閣官房ホームページ「地域DXの推進に向けた取組について」
2-6. テレワーク
テレワークとは、在宅勤務やサテライトオフィス勤務のように、オフィス・勤務地とは離れた場所で仕事をする働き方のことです。
テレワークは働き方改革の主要な取り組みに挙げられており、導入することで職員が働く場所や時間を柔軟に調整できます。子育てや介護といった家庭の事情がある場合も、テレワークができる環境であればキャリアを継続して働けるでしょう。
また、テレワークを実現するにはペーパーレス化が必要であり、テレワークの普及促進は自治体の業務効率化にもつながります。
出典:総務省「地⽅公共団体におけるテレワーク推進のための⼿引き」
さらに、テレワークを導入して通勤機会が減ることで車両から排出されるCO2や、その他温室効果ガスの排出量削減に寄与したり、ペーパーレス化により紙の消費を減らすることで、印刷・廃棄にかかるエネルギーを削減したりと、サステナブルな社会の実現に向けた一助となります。
2-7. セキュリティ対策
自治体DXを進める上ではデータの保護が重要であり、総務省は自治体に対して情報セキュリティ対策の徹底を推進しています。
2023年には「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を改定し、クラウドサービスや外部委託先管理などの対策を盛り込みました。ガイドラインにはリスクアセスメントの実施やインシデント対応計画の策定も明記されており、自治体はサイバー攻撃や自然災害に備えた具体的な行動計画を策定することが求められています。
さらに、自治体は強固な情報セキュリティ対策を実施することで住民の個人情報を保護し、サイバー攻撃や災害に強いシステムを構築できます。職員に対して定期的なセキュリティ研修を行うことで、情報セキュリティに対する意識を高め、人的ミスを減少させることも重要です。加えて、最新のセキュリティ技術やツールの導入を進めることで、脅威に対する防御力を強化することができます。
今後、自治体はこれらの取り組みを通じて、持続可能で安全なデジタル社会の実現に寄与することが期待されています。
出典:総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和4年3月版)」
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3. 自治体DXを進めるための手順
自治体DXは闇雲に取り組みを実行するのではなく、計画的に進めることが大切です。
総務省が「自治体DX 全体手順書」で提示している、自治体DXを推進する手順を説明します。
1 | DXの認識を共有する |
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自治体DXは、利用者中心の行政サービス実現を目的として、デジタル化などの手段で業務効率化や改善を目指すことを基本理念としています。 自治体DXを推進する自治体は、首長や幹部職員がリーダーシップを発揮し、一般職員までDXの認識を共有し、実現に向けて一人ひとりが主体的に取り組む意識を醸成しましょう。 |
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2 | 全体方針を決める |
次に、DX推進のビジョンと工程表を含む、DXの全体方針を決めます。全体方針策定は、全庁的にDX推進するための重要なステップです。 DXによって何を実現するかは自治体の規模や既存の方針によって異なるため、地域の実情に合わせて全体方針を決めなければなりません。 また、全体方針を決めた後は自治体内で情報共有し、理解を深める必要があります。 |
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3 | DXの推進体制を整備する |
全体方針の決定後は、DXの推進体制を組織・人材の両面で検討、整備します。 組織面では、DX推進担当部門を設置した上で、各部門が連携できる全庁的・横断的な推進体制を構築します。1でDX認識をしっかりと共有しておくことで、ここでの緊密な連携が可能となります。 人材面では、DX推進に貢献するスキルや経験を持つDX人材の確保・育成を行いましょう。各部門に適切なデジタル人材を配置することと、必要であれば外部人材の活用、業務委託も含めて検討しましょう。 |
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4 | 取り組みを実行する |
自治体DXの取り組みを実行します。取り組みは単発ではなく、PDCAサイクルで進捗管理を行い、継続的に実行することが重要です。 柔軟かつスピーディーな意思決定が必要な場合は、OODAループ※のフレームワークを活用し、アジャイル型で管理することが有効とされています。 |
紹介した手順を参考に自治体DXを進めることで、スムーズなDX推進・実行ができるでしょう。
※ OODA(ウーダ)とは、Observe(観察、情報収集)、Orient(状況、方向性判断)、Decide(意思決定)、Act(行動、実行)の頭文字とったフレームワークで、迅速な意思決定を行うために用いられます。
出典:総務省「自治体 DX 全体手順書 【第 2.1 版】」
まとめ
自治体DXの実現は、地域の住民にとって利便性を向上させ、迅速な情報取得が可能になるというメリットがあります。また、自治体職員にとっては業務効率化による負荷軽減にも繋がります。さらに地方自治体全体にとってみると、デジタル化によるコスト削減や、意思決定スピードの加速、持続可能な公共サービスの実現といったさまざまなメリットの享受にもつながります。
フロントヤードの改革やマイナンバーの活用、標準化されたシステムの利用など、自治体DXにはさまざまな取り組みがあります。今後は自治体ごとのDX推進状況を見極め、地域ごとの課題に合わせた解決策を講じていくことが求められます。継続的な改善と取り組みを行うと、住民にとっても、自治体にとってもより良い未来が実現するでしょう。
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