介護業界の抱える課題・問題とは?施設課題の解決策についても解説
要介護者の増加により、介護業界は成長産業として注目されていますが、一方で多くの課題や問題を抱えているのも事実です。2025年問題や2040年問題に象徴されるように、高齢者人口の急増や老老介護、ヤングケアラーの増加など、社会全体で解決すべき課題が山積しています。
また、介護施設自体も人材不足や職員の高齢化、給与・待遇の問題、労働環境の過酷さ、介護保険制度による値上げの難しさといった内部的な問題に直面しています。この記事では、介護業界が抱える問題や課題と、個々の施設が取り組むことのできる解決策について詳しく解説します。
介護業界のコミュニケーション活性化、業務の効率化など
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1. 介護業界と関連が深い日本の問題・課題
日本では少子高齢化が進んでおり、要介護者の数は今後も増えていく見込みのため、介護業界は成長産業であると言えます。一方で、日本社会は介護に関して多くの課題を抱えているのも事実です。
まずは、介護業界と関連が深い日本の問題・課題を5つ紹介します。
1-1. 2025年・2040年問題
総務省の発表によると、2023年9月時点で、総人口に占める高齢者人口の割合は29.1%と過去最高を更新しました。
さらに、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年には、総人口に占める高齢者人口の割合は30%を超えると予想されています。2025年は介護業界でのターニングポイントとも言われており、高齢者の増加に対して現役世代の人口は減少するため、介護業界の人材不足が大きな懸念点です。
2025年以降も高齢者人口は増加を続け、団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年にピークを迎えると予測されています。2040年には総人口の3分の1以上が高齢者となる可能性が高く、高齢者1人を現役世代1.5人で支える状況になります。介護業界では、増加した高齢者を受け入れる新しい体制の構築が課題となるでしょう。
1-2. 介護施設の倒産件数増加
介護業界の需要増加が今後も見込まれる一方で、介護事業者の倒産件数は増加傾向にあります。倒産の理由として多く挙げられるのは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、長期休業を余儀なくされたり、濃厚接触者の欠勤が増えたりしたことです。
加えて、光熱費の値上げや物価高などによってコストアップした分を価格に転化できなかったために倒産するケースも少なくありません。また、介護業界の慢性的な人手不足などの原因で、事業の継続を断念する事業者が相次いでいます。人手不足の解消や物価高の先行きが読めないこともあり、倒産する介護施設は今後も増え続ける可能性があります。
1-3. 老老介護・認認介護
少子高齢化が進む日本では、老老介護と認認介護も深刻な問題です。老老介護とは、65歳以上の高齢者が高齢者の介護を行うことを指します。
一方、認認介護は、認知症である高齢の家族が、同じく認知症である高齢の家族の介護をすることです。認認介護ではお互いが認知症のため、適切な服薬管理や体調管理ができず、健康面に悪影響を及ぼすケースも少なくありません。
老老介護や認認介護には、体力的・精神的な負担によって共倒れしやすい、外出の機会が少なくなって社会的接点が減少しやすいなど、さまざまなリスクがあります。
1-4. ヤングケアラー
ヤングケアラーとは、18歳未満の未成年が家族の介護をしている状態のことです。ヤングケアラーの状態になると、子供が要介護者や幼い弟・妹の世話、家事などを日常的に行うことになります。子供が負担の大きい介護や家事を担う状況になれば、過度なストレスを抱えたり、学業や今後の進路に影響したりといった問題が発生しかねません。
ヤングケアラー問題の原因として主に挙げられるのは、共働き家庭の増加や核家族化です。子供自身が自分の境遇を客観的に認識できていないケースも多く、行政が支援に努めるべき問題と言えます。
1-5. 介護難民
介護難民とは、介護が必要な状態にもかかわらず、介護サービスを受けられずに困っている人のことです。病院や介護施設に空きがなく、家族が介護に専念せざるを得ない状況になるケースも少なくありません。働き手の仕事と介護の両立が難しくなり、休職や退職をした結果経済的に困窮する家庭も存在します。
少子高齢化が進み、介護を必要とする人が増えている一方で、前述の通り介護施設の倒産件数も増加しています。その結果、老人ホームなどへの入居待機者となる人が多く、特に高齢者の割合が増えている首都圏では、この問題への注目が高まっています。
2. 介護施設が抱える問題・課題
介護業界に関する課題は、日本の社会全体が抱えているものだけではありません。個々の介護施設も、介護ニーズが高まっている中で倒産件数が増えることから明らかなように、さまざまな問題や課題を抱えています。それぞれ詳しく解説します。
2-1. 介護人材の不足
介護労働安定センターの2023年度の調査によると、介護関係の事業所のうち、実に64.7%が従業員の不足感を抱いていると回答しました。中でも訪問介護員の人材不足感は深刻で、全体の80%を超えています。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査結果報告書」
また、「介護労働者の就業実態と就業意識調査」によれば、仕事の負担などに関する悩みの中で、人手不足が49.9%と最も多く挙げられる結果となりました。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」
介護業界では介護人材の新規採用が難しく、求人を出しても応募が少ない状況です。介護人材が不足すると、スタッフ1人あたりの仕事の負担が大きくなり、離職率がさらに増える悪循環に陥るおそれがあります。介護人材が不足している状況が続けば、介護サービスの質の低下など、別の問題につながる可能性もあります。
2-2. 介護職員の高齢化
高齢化に関する問題は、介護サービスを提供する側も例外ではありません。介護労働安定センターの2023年度の調査によると、介護労働者のうち45~49歳の人が全体の15.2%で、最も多い結果となりました。続いて、50~55歳の人が全体の14.5%、40~45歳の人が12.8%、55~60歳の人が12.3%という順で、平均年齢は48.4歳となっています。介護職員全体のうち、30代以下の人の割合は25%に満たない状況です。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」
一般労働者の平均年齢は、2022年の時点で43.7歳です。介護職員の平均年齢は一般労働者と比べて4.7歳高く、介護職員の高齢化が顕著であることが分かります。
職員が高齢化すると、定年退職によって一気に人材が枯渇する可能性があるほか、加齢に伴う体力・気力の衰えにより、業務に支障が起きるおそれもあります。また、特に介護業務では、利用者を介助する際に誤って職員が怪我をするリスクが加齢によって高まるため、労災が起きやすくなる点も懸念されています。
2-3. 給与・待遇の問題
介護労働安定センターによる2023年度の調査では、介護人材が抱えている不満のうち、「仕事内容のわりに賃金が低い」は「人手が足りない」に次いで2位でした。介護人材のうち37.5%が、賃金や待遇に不満を感じているという結果が出ています。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」
事実、2023年の給与所得者全体の平均年収は460万円なのに対し、介護職員の平均年収は約371万円であり、給与水準は低いと言えます。訪問介護従事者の平均年収は約390万円、介護支援専門員(ケアマネジャー)は約422万円であり、いずれも他業種に対して低い水準です。
出典:政府統計の総合窓口「賃金構造基本統計調査 / 令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種」
2-4. 労働環境の過酷さ
介護業界の労働環境の悪さは、「きつい・汚い・危険」の3Kに「給料が安い」を加えた4Kと呼ばれて批判されることもあります。介護職は精神的にも肉体的にもきついと言われることが多く、利用者の身体介護をする中で腰痛を発症する人も少なくありません。
また、介護職では利用者の排せつの介助や汚物の始末などをする機会も多く、特に慣れないうちは汚いと感じるケースもあります。さらに、利用者の予期せぬ動きによる怪我のリスクや、施設内での集団感染のリスクといったことを考慮すると、危険な仕事とも言えるでしょう。
ただし、現在の介護業界では労働環境が改善傾向にあり、働く人の満足度も上がってきています。実際に、介護労働安定センターの2023年調査では、「働きがいのある仕事だと思ったから」介護職として働いている方が42.3%に達しています。このことから、介護職は単に過酷な仕事ではなく、やりがいのある職業であることが示されています。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」
介護業界で問題なのは、労働環境が過酷というイメージを払拭できていない点と言えるでしょう。
2-5. 介護保険制度による値上げの難しさ
介護保険における介護報酬制度の改定がサービスの原価高騰に追いついておらず、価格転嫁が難しいところも介護業界の課題です。
介護報酬とは、介護保険が適用されるサービスを提供した介護施設に対して、国から支払われるお金のことです。介護報酬額とサービス内容は要介護状態の段階によって決まり、介護職員の最低数は利用者の人数に応じて定められています。
利用者が支払うサービス利用料は介護報酬に基づいており、施設側で価格設定ができません。値上げや人件費の削減によって利益を確保することが難しく、企業努力だけでは介護事業所の収入を増やすのは困難です。
3. 介護業界の問題・課題の解決策
介護業界は介護保険制度の関係上、収入増による賃上げで人を集めるのは難しいことを念頭に置かなければなりません。介護業界の人手不足を解消するためには、働きがいがあり、業務効率が良く、少人数でも負担なく回る職場環境を作ることが重要になります。
以下では、介護業界の問題・課題の解決策を4つ紹介するので、参考にしてください。
3-1. 柔軟な働き方を取り入れる
介護業界では、フルタイムの正社員雇用にこだわらず、柔軟な働き方を取り入れている事業者は少なくありません。契約社員やパートタイマー、アルバイトなど、多様な雇用形態に対応して人材確保の間口を広げています。働き方の選択肢をさらに増やし人材確保をするために、他国籍のワーカーを働き手として雇用する事業者も増えています。
有資格者の短時間勤務に対応することも、人材不足への対策として有効です。子育て世代や退職後でも体力がある人、兼業・副業で介護の仕事に携わりたい人などが働きやすい環境を作るとよいでしょう。
また、テレワークの導入を検討するのも1つの手段です。介護業界はほかの業種に比べてテレワークを推進するのが難しいという側面はあるものの、介護施設の管理者や専門職などはテレワークに対応できる場合があります。また、育児・介護休業法の改正により、月10日以上のテレワークをはじめとした柔軟な働き方を実現するための措置が今後義務化されるため、テレワークができる体制を今のうちに整えておきましょう。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法」
3-2. コミュニケーションの取りやすい職場環境にする
情報共有やコミュニケーションが円滑であることは、働きやすい職場環境の条件の1つです。例えば、話しかけられた際には相手の顔を見て柔らかい表情で応じるなど、対応の仕方1つを意識するだけでも話しやすい職場環境づくりにつなげられます。
また、上司に相談しやすい職場環境であることも重要です。問題や悩みをすぐに相談できる雰囲気があれば、トラブルやクレームを最小限に抑えることが可能になります。コミュニケーションの取りやすい職場環境は、介護職員の負担軽減、ひいては介護サービスの品質向上にもつながる重要なポイントと言えるでしょう。
3-3. メンタルケアやストレスマネジメントを行う
介護職員はチームワークで日々動く集団です。介護職は、自分の感情を抑えて相手に合わせるべき場面も少なくない職業で、職場によっては利用者や同僚・上司との人間関係、労働環境などもストレスの原因になり得ます。風通しの良い職場環境を作ることはもちろん、定期的に面談を行うなどして職員個人のストレスチェックを行い、状況に応じたメンタルケアを講じることも望まれます。積極的に対話の場を設けることは、信頼関係やチームワークを構築する上でも役立ちます。
また、介護職員のストレスは利用者への虐待や周囲へのハラスメント、自身の心身の不調による休職や退職などにつながるリスクもあるため、マネジメント職や、リーダークラスの職員を中心に、ストレスマネジメントを身につけさせることも大切です。ストレスマネジメントとは、ストレスをため込まない自己管理の方法を指します。適切なスキルを習得することで、ストレスに起因する心身の不調を防ぎ、休職や退職を減少させる対策を講じましょう。
3-4. 介護DXによる業務効率化を進める
DXとは、デジタル技術を用いて生活やビジネスに変容をもたらすことです。DX化はさまざまな業種で進められており、介護業界でも、AIやIoT、ICTといったデジタル技術を取り入れてワークフローを変革することが推奨されています。
介護DXが進んで機械化・自動化できる仕事が増えれば、少ない人員でも仕事を進められるようになるため、人手不足による問題の解消につながります。また、IT導入を進めて業務を効率化できれば、職員の負担軽減にもつながるでしょう。
介護DXを導入する際には、はじめに現状分析を行い、事業所の課題を明確にすることが大切です。また、予算計画では、国からの補助金などで利用できるものがないか調べてみるとよいでしょう。
4. 介護業界の人材不足解決につながるICT活用例
介護業界の課題解決には、ICT活用が必要です。ICTとは「Information and Communication Technology」の略で、IT(情報技術)を利用して情報の伝達・共有を行うサービスや産業の総称です。スマートフォン(スマホ)やタブレット、パソコンといったデジタルデバイスを使い、テキストチャットや電子メール、ビデオ会議、SNSなどのやり取り、ネットショッピングをすることもICT活用の一例にあたります。
介護業界におけるICT活用例を3つ紹介するので、ぜひ人材不足解決に向けた取り組みに役立ててください。
4-1. 社用スマホの支給とインカム・チャットアプリの導入
介護業界のICT導入で有効な手段として挙げられるのが、社用スマホの支給とインカム・チャットアプリの導入です。インカムを導入すれば、場所を問わず状況を全員に共有できるため、指示出しや申し送りの時間を短縮できます。情報共有をタイムリーに行えれば、リスク回避やトラブル対応などを迅速化できる点も大きなメリットです。
ただし、インカムを選定する際には注意が必要です。インカムには多くの種類があり、片手で機器を持つ必要があるものや、耳をふさぐタイプの製品もあります。介護の現場では両手がふさがる場面も多いほか、周囲の声・音に気を配りながら働く必要があるため、介護の現場で使うのに適した製品を選ぶことが大切です。
チャットツールを導入するメリットは、情報を正確かつ迅速に共有できるようになることです。口頭での情報共有では連絡の有無や伝達内容についてトラブルに発展するリスクがありますが、チャットツールを使って文字で共有すれば記録が残り、情報を正しく伝えることができます。また、電話の機会が減れば、目の前の仕事に集中できる時間が増え、職員のストレス軽減にもつながるでしょう。
インカムとチャットツールは、いずれもアプリケーションを利用することでスマホ1台に集約できます。使い慣れているスマホで利用できるICTを活用すれば、新しい機器を導入するよりもスムーズに新しい働き方に移行しやすくなるでしょう。
4-2. タブレットと介護記録ソフトを使った記録時間削減
タブレットと介護記録ソフトを利用して介護記録を作成することで、業務効率化や介護職員の負担軽減といった効果が期待できます。紙とペンで行う記録作業やほかの書類への転記なども、タブレットと専用の記録ソフトを利用することで不要となり、書類の持ち運びや、保管・管理業務の手間も削減できる点が大きなメリットです。また、介護の現場や外出先でも入力でき、その場でデータを共有できることも大きな魅力と言えます。
ただし、タブレットの使用に慣れていない職員がいる場合、活用が定着するまでに時間がかかる可能性があります。職場全体で操作方法を教え合える雰囲気を作るほか、導入時に研修を実施するなどの対策を講じることが重要です。
4-3. 勤務シフト作成システム導入による業務の可視化
シフトで動いている介護業界では、勤怠打刻のために事務所を行き来するというケースも少なくありません。しかし、勤務シフト作成システムを導入すれば、訪問先でも出退勤の記録をつけられ、職員はスマホやタブレットでいつでも自分のシフトを確認できるようになります。また、シフトを自動生成したり調整したりする機能のおかげで、シフト作成にかかる時間を削減でき、さらに、作成時の人的ミスの削減も期待できます。
勤務シフト作成システムとビジネスチャットツールが連携可能な場合、打刻やシフト確認をチャットツール上で完結でき、都度システムにログインする必要がありません。例えば、LINE WORKSの場合、トークルーム上で「出勤」もしくは「退勤」をタップするだけで打刻するといったことも可能です。
職場でLINE WORKSを導入している場合は、LINE WORKSと連携可能な勤怠システムから選ぶことをおすすめします。
まとめ
人材不足や職員の高齢化といった問題に対しては、多様な人材が働きやすい柔軟な職場環境づくりやメンタルケアの強化、コミュニケーションの活性化が有効です。また、ICTの活用による介護DXは、少ない人員でも質の高いサービスを提供するための鍵となります。
例えば、社用スマホやタブレットを支給し、インカム・チャットアプリを使ってコミュニケーションの機会を増やせば、報連相が密になり、業務の効率化に繋がります。介護記録やシフトなど、業務に使う情報も簡単に共有できるため、まずは各ツールの導入から始めるとよいでしょう。
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。