介護業界の人手不足の原因とは?介護現場の問題点や対策方法を解説
介護業界は日本社会にとって不可欠な存在ですが、近年は深刻な人手不足に直面しています。この背景には、急速に進む高齢化と少子化が大きく影響しています。高齢者人口の増加に対して、介護職に従事する若年層の減少が続いているため、現場では慢性的な人手不足が大きな課題です。
また、介護職は身体的・精神的負担が大きく、待遇の改善が遅れていることから、離職率が高い状況です。当記事では、介護業界の人手不足の原因や課題、そして解決策について詳しく解説し、現場の現状と今後の展望を探ります。
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1. 介護業界における人材不足の背景と現状
介護業界では人材不足が深刻な問題となっています。高齢者の数が増え続ける一方で、介護従事者の数が追いついていないためです。以下では、介護業界が抱える人材不足の背景と現状について解説します。
1-1. 高齢化によって高齢者の割合が増加している
日本における高齢化は、介護分野での人材不足の大きな要因です。内閣府の「高齢社会白書」によると、2023年10月の時点で65歳以上の高齢者は日本の総人口の約29.1%を占めており、今後も増加が見込まれています。
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、介護を必要とする高齢者の数が急激に増える「2025年問題」は目前です。85歳以上の高齢者は2035年ごろまで増加を続けると推測されており、今後も介護スタッフの需要は増大していくでしょう。このような背景から、介護業界は深刻な人材不足に直面しています。
1-2. 少子化によって介護を担う若者が減少している
介護需要が増加する一方で、少子化の進行により介護を担う若者の数が減少しています。2023年の合計特殊出生率は1.20と過去最少の水準で、日本全体の労働人口が減少していく未来を明確に示しています。
出生率の低下は今後も続くと予測されており、介護人材採用競争はますます激化するでしょう。特に介護業界はほかの業界に比べ、若い労働者の確保が難しい職種でもあります。少子化により若年層の労働力が減少することで、介護施設でのスタッフ不足が常態化し、介護サービスの質低下や従業員の負担増加につながっています。
出典:厚生労働省「令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
1-3. 介護職員は増加傾向にあるものの人材不足に陥っている
介護業界では、職員の数そのものは増えているにもかかわらず、需要の増加に追いついていないため、引き続き人材不足が課題となっています。厚生労働省は、2024年7月12日に第9期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づく、介護職員の必要数を公表しました。これによると、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人の介護職員を確保する必要があると推計されています。
しかし、2022年度時点での介護職員数は約215万人であり、現在の増加ペースでは必要数に追いつかない見込みです。2026年度には約25万人、2040年度には約57万人の介護職員が不足すると予測されており、対策が急務とされています。
また、人材不足に陥る背景は、地域ごとに異なります。都市部では、高齢者の絶対数が地方より多いため、介護職員の手が足りていない状況です。一方地方では、高齢者の比率が都市部よりも高いにも関わらず、働き手の数自体が減少傾向にあり、人手不足となっています。経済力の格差から福祉サービスが追いついていないところも少なくありません。
このような現状が、介護業界における人材不足をさらに深刻化させています。この問題を解決するためには、今いる職員の定着率を上げつつ業務効率向上を叶える、待遇の向上や、労働環境の改善が必要です。
2. 介護業界で人手不足が起こる原因と介護職の問題点
介護業界の人材不足が深刻化している背景には、さまざまな要因があります。以下では、職場環境や待遇、社会的な評価、身体的な負担など介護職に特有の問題点を5つに分けて解説します。
2-1. 職場の人間関係
介護業界における離職の原因として、もっとも多いのが「職場の人間関係」に関する問題です。公益財団法人介護労働安定センターの「令和5年度介護労働実態調査」によると、介護職を辞めた理由に人間関係の問題を挙げた人が34.3%と最多でした。
介護の現場は密なチームワークが不可欠である一方で、従業員同士の意思疎通の不足や管理者により指導法がバラつくこと、その他の要因によって、人間関係のトラブルが生まれやすい状況です。このような人間関係のトラブルが職場環境を悪化させる要因となり、結果として人材の定着を難しくしています。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について」
2-2. 待遇や労働環境
介護職は仕事内容に対して賃金が低いことも、人手不足の大きな原因です。介護職の平均月収は約29.8万円であり、全産業の平均月収である約32万円に比べて低い水準です。「令和5年度介護労働実態調査」でも、介護職員の37.5%が「仕事内容のわりに賃金が低い」と感じている結果が出ました。
介護職は身体的な負担が大きい上、長時間労働になりやすく、労働環境が改善されないケースが多い状況です。特に、夜勤では少ない人数で多くの利用者をケアしなければならないため、過度な負担を感じる職員も少なくありません。このような環境では、職員の健康に悪影響をおよぼすリスクが高まり、結果として離職率も増加する傾向にあります。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について」
2-3. 社会的評価の低さ
介護職は社会的に重要な役割を果たしており、利用者の生活を支える大切な仕事です。今後も少子高齢化が進む日本において、その重要性はさらに増していくでしょう。しかし、残念ながらその評価は必ずしも高くないのが現状です。公益財団法人介護労働安定センターの調査では、介護職員の20.4%が「業務に対する社会的評価が低い」と感じていると報告されています。
介護職は、排泄や入浴などの身体介助を含むため、肉体的にも精神的にもキツイ仕事といえるでしょう。そのような中でも、介護職員は専門的な資格を取得し、日々の業務に真摯に取り組んでいます。にもかかわらず、その努力が社会的な評価に反映されにくい現状があります。これが、介護職員のモチベーション低下の一因となり、離職につながるケースがあります。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について」
2-4. 身体的負担の大きさ
介護業務は身体的にきついと感じる人が多いのも、人材不足の要因の1つです。入浴や移動介助といった日常的なケアでも腰や膝を痛めやすく、腰痛に悩まされる職員が少なくありません。「令和5年度介護労働実態調査」では、介護職員の約29.3%が「身体的負担が大きい」と答えました。
夜勤シフトにおいては、1人で多くの利用者をサポートしなければならないことが多いため、負担はさらに増します。また、介護施設では感染症対策や衛生管理が重要な取り組みであり、こういった対応も職員の身体的負担を増やす要因です。介護業界全体として職員に対する健康管理を徹底することはもちろんですが、夜間などで対応できる職員の数が少ないときでも、効率的に業務を回せる環境の整備も重要視されています。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について」
2-5. 入居者やご家族からのハラスメント
介護業界で問題視されているのが、入居者やその家族からのハラスメントです。厚生労働省の調査では、介護施設に勤務する職員の約4~7割が何らかのハラスメントを受けた経験があると報告されました。ハラスメントには、身体的な暴力・言葉による暴言・無理な要求などがあり、職員にとって大きなストレスの要因となっています。
また、家族からの無理難題や、職員を批判する発言が繰り返され、精神的に追い詰められてしまうケースもあります。こうしたハラスメントが原因で職場を去る職員が増えており、介護業界の人手不足を深刻化させる一因となっています。
出典:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
3. 介護業界における人手不足の対策方法は?
介護業界の人手不足は複合的な要因から生じているため、現状に応じた対策が求められます。人材の定着や新たな採用を進めるには、働きやすい職場環境の整備が欠かせません。以下では、人手不足解消に向けた対策方法を7つ紹介します。
3-1. ITツールやシステムを導入する
介護業界では、ITツールの導入が業務効率化や人手不足解消に有効な手段として注目されています。IT (情報技術) とは、コンピューターやネットワークを使い情報を収集したり、保存したり、処理したりする技術全般のことを意味します。ソフトウェアやデータベースもこれに含まれます。たとえば、利用者の健康管理や職員シフト管理などをIT化すれば、日常業務の負担が軽減できるでしょう。
見守りカメラの導入も効果的です。高齢者施設では、転倒や徘徊といった事故のリスクが高く、職員の目が届かない状況で事故が発生するケースも決してないとは言えません。夜間の見回り業務や、施設内での虐待やケガといった重要インシデントも、見守りカメラによって利用者の行動をリアルタイムで把握できれば、迅速な対応が可能です。
KDDI まとめてオフィスの「まとめてネットワークカメラ with safie」は、スマートフォン(スマホ)やパソコン(PC)から簡単に施設内の様子を確認できるクラウド型見守りカメラです。事故防止や入居者の安全確保に役立ちます。このようなカメラの導入により、職員の監視負担を軽減しつつ、安全なケア環境を維持しやすくなるでしょう。
3-2. ユニットケアを導入する
ユニットケアは、利用者個別のニーズに応じた介護を提供するための方法です。従来の集団ケアとは異なり、入居者を少人数のユニットに分け、専任の職員が一貫してケアにあたることで、利用者の生活リズムや個性を尊重したケアが可能です。この方法は、入居者の自立度向上に役立ち、結果的に介護の負担が減少する効果も期待できます。
また、ユニットケアで入居者と職員間のコミュニケーションが深まれば、ケアの質も向上します。少人数のユニットで生活が営まれるため、入居者一人ひとりの様子を把握しやすく、事故リスクの低減や、日々のケアのスムーズな実施が期待できるでしょう。職員にとっても、少人数のケアで業務負担やストレスが軽減されるため、離職率の低下にもつながります。
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3-3. 相談窓口を設置する
人間関係や労働環境に関する相談窓口の設置も、人手不足対策として重要です。2020年度の調査では、相談窓口のある事業所では職場での不安や悩みを抱える割合が低く、労働条件に対する満足度も向上するとの結果が出ました。特に、職場内でのトラブルやハラスメントなどの相談が可能な窓口があれば、職員が問題を抱え込まず、気軽に相談できる環境が整います。
相談窓口を通じて、職員の意見や要望を聞き取ることで、労働環境や処遇改善のヒントが得られるケースもあります。しかし、施設の規模など状況によっては相談窓口を開設することが難しい場合もあるでしょう。その際は、チャットツールを使い日ごろから職員間で密なコミュニケーションを取れる風通しの良い環境を提供したり、時間的制約で対面の面談が難しいときには、ウェブ会議ツールを使ってマネージャーが現場職員の不安や悩みを吸い上げたりすることもできるので、これらのICTツール活用を検討してみるのも良いでしょう。いずれにせよ、職員の働きやすい環境を作ることができれば、離職率の低減につながり、組織の安定にも寄与します。
出典:公益財団法人介護労働安定センター「介護労働の現状について」
3-4. 資格取得支援制度を導入する
介護業界でのスキルアップを支援する資格取得支援制度は、人材の定着やモチベーション向上に効果的です。この制度は、職員が業務に必要な資格を取得する際、会社が費用や時間的なサポートを提供する仕組みです。資格取得支援制度を導入すれば、未経験者や若手職員が介護福祉士などの資格を取得しやすくなり、キャリアアップを目指せます。
資格取得後に昇給や手当がつくことで、職員のスキルアップに加え満足度も向上し、結果として定着率や新規応募数の改善にもつながるでしょう。こうした取り組みによって職員が長期的に働き続けられる環境を整えれば、介護業界全体の人材不足解消に貢献できます。
3-5. 外国人の人材を採用する
外国人の人材採用も、介護業界の人手不足対策として効果的です。日本では少子高齢化が進んでおり、若い労働力の確保が難しい状況です。この中で、若年層の外国人労働者に対する期待が高まっています。実際、フィリピンやベトナムなどからの技能実習生や、特定技能制度を利用した外国人の採用が増加している状況です。
外国人を介護労働者として雇用するには、日本語の習得や文化の違いへの対応といった課題がありますが、彼らは強い労働意欲と適応力を持っています。また、政府や自治体からの助成金や補助金など、外国人雇用を支援する制度が充実しているのも魅力です。こうした外国人採用サポートを活用すれば、外国人労働者が介護現場で活躍できる環境をスムーズに整えられるでしょう。
3-6. 採用方法を見直す
介護業界での人手不足を解消するためには、採用方法の見直しも必要です。従来の求人広告やハローワークの利用だけではなく、インターネットを活用した採用戦略の強化が求められます。自社ホームページはもちろん、求人サイトやソーシャルメディアの活用は、幅広い層の求職者にアプローチできる効果的な方法です。
また、潜在介護士を対象にした再雇用の促進や、人材派遣業者・人材紹介会社の利用、短時間勤務制度の導入など、雇用形態の柔軟性も求められています。求人を出す際には明確なターゲット層を設定し、介護事業所側が魅力や強みをアピールすることが重要です。資格取得支援制度や働きやすい環境の整備が進んでいれば、意欲的な求職者を引き寄せられるでしょう。
3-7. 介護職員の評価制度(キャリアパス制度)を整える
介護職員の評価制度(キャリアパス制度)の整備は、職員のモチベーション向上と定着率改善に直結します。明確で公平な評価制度が整っていなければ、職員は自分の仕事が正当に評価されていないと感じ、やる気を失う可能性も考えられます。そのため、業績やスキル、勤務態度などを適切に評価する仕組みの構築が重要です。
職員が自分の働きを認められ、昇給や昇進の機会が明確に提供されれば、仕事への意欲が高まります。また、評価基準が明確であれば、職員間の不公平感が減り、職場の人間関係の改善にもつながります。結果として、離職率の低下や職員の長期的な定着が促進されるでしょう。
事業所側としても、キャリアパス制度を整備することで、職員を適正に判断することができるほか、職員のモチベーションが高まることで介護の質が向上することも期待できます。さらに、キャリアパスを重視するやる気のある職員を採用する助けにもなるでしょう。
4. 介護業界のICT化で期待できる効果
現代はあらゆる分野でのICT化が進んでおり、介護業界で例外ではありません。ICT(情報通信技術)とは、情報処理に加え、その情報の通信も含めた技術のことを指します。たとえば、ビデオ会議や、テキストチャット、電子メール、SNSなどの情報を共有するためのツールやシステムがICTに含まれます。介護業界では、ICT化が業務の効率化やケアの品質向上、職員の負担軽減に貢献すると期待されています。以下では、介護業界のICT化で期待できる効果を4つ紹介します。
4-1. 情報共有がスムーズになる
ICT化は、情報共有の効率化に大きく貢献します。デジタルデータの活用により、紙の記録や口頭に頼っていた情報伝達が、タブレットやスマートフォンでリアルタイムに共有できるためです。たとえば、利用者宅で健康情報やケア記録を端末に入力すると、事務所の職員が即座に最新の状況を確認できるようになります。
これにより、情報を把握する時間が短縮される上、伝達ミスも起こりにくくなり、ケアの連携がスムーズに進むようになります。地域の医療機関やケアマネージャーとの情報共有も迅速化されれば、利用者のケア体制の強化が期待できます。
4-2. ケアの品質向上につながる
ICT化は、介護サービスの品質向上にも効果的です。たとえば、利用者の活動状況やバイタルデータを遠隔でモニタリングし、職員が常に利用者の状態をチェックしていれば、異変が起きても迅速に対応できます。また、システム上に蓄積した利用者のデータを把握・分析することで、個別のニーズに応じたケア計画を立てやすくなるのもメリットです。
こうしたデータは利用者の状態変化を予測することにも役立ち、転倒や事故のリスクを未然に防ぐ効果も期待されます。ICTの導入は、介護の質を向上させるだけでなく、利用者の安全と安心を守るための重要な役割を果たすでしょう。
4-3. 業務を効率化できる
ICT化の大きなメリットの1つは、介護現場における業務効率化です。介護職は記録業務や日報作成といった書類作成が多く、これが職員の負担となっています。たとえば、訪問介護での日報やケア記録をデジタル化し、タブレットなどで利用者宅から入力できるようにすれば、施設へ戻って報告する必要はありません。
また、勤怠管理システムや給与計算システムを導入すれば、管理業務の負担も軽減されます。ICTによる効率化は、職員の作業時間を短縮し、時間的な余裕を生み出すことで、施設運営の健全化にもつながります。
4-4. 離職率の低下につながる
ICTの導入は職場環境の改善につながり、結果的に離職率の低下が期待されます。介護職員の離職理由の多くは、業務量の多さや精神的・肉体的負荷の高さですが、ICTを活用することでこれらの負担を軽減することができます。たとえば、見守りシステムの導入によって夜間の巡回頻度を減らし、職員の負担を軽減することが可能です。
また、ICTツールで情報の管理と共有がスムーズになれば、職員同士のコミュニケーションも円滑になり、チームワークが向上します。ICTは、職員のストレスが減り、充実したワークライフバランスを保ちながら働ける職場環境の実現に役立つツールです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今後も高齢化が進み需要が増す介護業界において、業界全体の課題である人手不足を解消するためには、
- ICTを活用して職員一人ひとりの業務負荷を軽減し、円滑なコミュニケーションを実現する。
- 働きやすい職場環境をつくり、明確な評価精度を示すことで離職率を低減させる。
- 外国人労働者や潜在介護士も対象として、雇用形態に捕らわれない採用方針をとる。
- 自社ホームページに留まらず、SNSや求人サイトも活用し、若年層にも介護職の魅力を伝える。
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