SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、企業が持続可能な社会の実現を目指し、社会的価値と経済的価値を両立させるための経営変革のことです。環境問題や社会課題への対応だけでなく、企業自身の長期的な成長を視野に入れた取り組みが求められます。
当記事では、SXの概要やDX・GXとの違い、取り組むメリット、成功のポイントを解説します。サステナビリティを重視した経営を始めたい方や、企業価値をさらに高めたい方は、ぜひ今後の企業戦略にSXを取り入れる際の参考にしてください。
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1. SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは
SX(Sustainability Transformation)とは、企業と社会の持続可能性を両立させるための経営概念です。この考え方は、経済産業省が2020年に提唱した「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」で紹介され、広く知られるようになりました。企業がSXを推進するには、企業のサステナビリティと社会のサステナビリティの同期化が必要です。
以下では、企業と社会のサステナビリティについてそれぞれ解説します。
1-1. 企業のサステナビリティ
企業のサステナビリティとは、企業が中長期的に稼ぐ力を持続し、成長し続けることです。経済産業省の資料では「企業の稼ぐ力の持続性」と位置づけられており、将来に向けた事業ポートフォリオの見直しや、イノベーションの推進が重要とされています。
ただし、単に利益を上げ続けるだけではサステナビリティ経営とは言えません。ビジネスモデルや競争優位性を強化し、社会や環境の変化に対応できる柔軟性も必要です。企業が自社の利益を追求するだけでなく、社会的な課題にも取り組むことで、長期的な成長と持続可能性を達成でき、企業イメージの向上と信頼の獲得につながります。これにより、企業は不確実な未来においても、競争力を保持することが可能です。
出典:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~」
1-2. 社会のサステナビリティ
社会のサステナビリティとは、気候変動や感染症の流行、戦争の勃発など社会が直面する不確実性に備えつつ、将来にわたって持続可能な社会の姿を目指すことです。社会全体が抱える課題を解決し、安定した未来を築くための努力が求められます。
社会のサステナビリティには、企業が社会の変化を敏感に察知し、理解した上で経営戦略を立案することが必須です。社会的なリスクや機会を適切に把握し、それを事業活動に反映させることができれば、企業と社会の両方に利益をもたらすでしょう。時代の流れに即した取り組みによって、企業は社会全体の発展に貢献し、結果として自社の持続的成長を実現することが可能になります。
出典:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~」
2. SXとその他用語との違い
SX以外にも、いくつかの関連用語が経営のトレンドとなっています。類似する用語との違いを理解すれば、SXへの理解もより深まるでしょう。以下では、SXと混同されやすいDX・GX・SDGsといったキーワードの概要と違いを解説します。
2-1. DXとの違い
DX(Digital Transformation)とは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務を変革し、企業競争力や企業価値を向上させる取り組みです。IoTやビッグデータなどのテクノロジーを駆使して業務効率化を図り、新たな価値を創造することを目指します。
SXは、中長期的に持続可能な社会と企業の成長を目指す取り組みであるのに対し、DXは比較的短期間で効果を期待される取り組みです。ただし、SXの推進にはDXが不可欠なツールとなるケースが少なくありません。
たとえば、ICT(情報通信技術)を活用したSXの具体例として、果物の有機栽培におけるセンサーテクノロジーやドローンを利用した栽培状況のモニタリングがあります。ICTの活用により、生育環境をリアルタイムで把握し、必要に応じた最適な施肥や水の管理が可能です。また、生育データや品質情報をデジタルで管理することで、効率的な栽培計画の立案や品質向上を図ることができます。
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2-2. GXとの違い
GX(Green Transformation)とは、環境負荷を低減し、脱炭素社会を実現するための変革を指します。GXは地球環境問題にフォーカスしており、温室効果ガスの削減や再生可能エネルギーへの転換に重点を置いた取り組みです。社会システムや産業構造を変革し、化石燃料に依存したエネルギーから再生可能エネルギーへの転換を目指します。日本政府も、国を挙げて温室効果ガス排出量削減に努め、2050年までに全体としてゼロにする目標を掲げました。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」
一方、SXは環境に加えて貧困・人権・経済格差といった広範な社会的課題の解決も含む点でより広い視点を持つ取り組みです。GXはSXの一部であり、SXの全体的な目標を達成するための重要な構成要素の1つだと言えるでしょう。
2-3. SDGsとの違い
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標です。2015年に国連サミットで採択されました。SDGsは17のゴールと169のターゲットから構成され、気候変動・貧困・人権問題など広範な社会課題を扱っています。SDGsは地球規模での協力を前提とし、各国が連携してこれらの目標を達成することを目指す取り組みです。
出典:公益財団法人 日本ユニセフ協会「SDGsって何だろう?」
SXも同様に持続可能な社会を目指す取り組みではありますが、企業が具体的に行うべき行動や経営の長期的戦略を示す点で異なります。SDGsは国際的な協調を重視した目標であり、SXは目標達成に向けて企業が事業変革を実践する手段として位置づけられています。
3. SXが注目される背景は?
SXが注目される要因としてまず挙げられるのが、SDGs(持続可能な開発目標)の普及により、企業経営において持続可能性を重視する動きが強まっている点です。SDGsでは、企業に対し社会や環境の課題への積極的な取り組みを求めており、SXは具体的な手段の1つとして注目されています。
また、世界情勢や環境の急速な変化もSXの重要性を高めている要素です。気候変動やパンデミックといった不確実性の高い環境において、企業は持続的な成長を続けるために新たな対応を求められるようになりました。SXは、企業が社会的な課題に対応し、持続可能な成長を実現するためのフレームワークとして重要視されています。
さらに、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の進展と拡大も、SXが注目される一因です。ESG投資は、企業の持続可能性に焦点を当てた投資手法であり、SXに取り組む企業は投資家からの評価が高まります。また、人的資本を重視した経営視点も重要です。企業の持続可能な成長には従業員の能力開発や働きがいの向上が欠かせず、SX推進の一環として捉えられています。
4. 企業におけるSX推進の現状
現状、日本企業におけるSX推進への取り組みは大企業が中心であり、中小企業ではあまり進んでいません。中小企業における取り組みの遅れは、SXの重要性・必要性に対する理解不足やリソースの不足が主な要因です。ただ、2024年4月に経済産業省および株式会社東京証券取引所によって「SX銘柄」が創設されました。
「SX銘柄」の創設は、SXに積極的に取り組む企業を評価・選定し、社会に示すことでほかの企業の取り組みを促すことが目的です。「SX銘柄」は、「伊藤レポート3.0」と「価値協創ガイダンス」に基づき選定されます。2024年4月2日に選定された企業15社のレポートが公表されました。
今後は、SXへ積極的に取り組む姿勢や具体的な企業戦略が投資家からの信頼を得る重要な要素となり、企業価値向上にもつながるでしょう。SXへの取り組みが企業にとっての差別化要因として成立することで、中小企業においても徐々にSX推進の動きが広がっていく効果が期待されています。
5. 企業がSXに取り組むメリット
SXへの取り組みは、企業に多くのメリットがあります。特に期待できるのが、企業のイメージ向上や投資家からの評価、ステークホルダーとの関係強化、稼ぐ力の向上です。以下では、企業がSXに取り組む主なメリットを4つ解説します。
5-1. 企業イメージが向上する
近年、環境問題や社会的課題の解決へ積極的に取り組む姿勢は、消費者や投資家から高く評価される傾向にあります。特に若い世代では、企業が持続可能性を重視しているかどうかを購買や就職の判断基準にするケースが増えてきました。環境や社会への配慮を強調することで信頼性が高まり、より多くのビジネスチャンスを獲得できるでしょう。
また、サステナビリティへの取り組みは、従業員の意識やモチベーションにプラスの影響をもたらす要素です。社会的責任を負担する行動を取る企業は、従業員が仕事に誇りを持ちやすくなり、優秀な人材の確保にもつながります。
5-2. 投資家や株主からの信頼が深まる
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が広がりを見せており、投資家は持続可能な企業活動を重視する傾向が強まってきました。SXを推進する企業はESG投資家から注目されやすく、資金調達の面でも有利に働きます。
特に、環境リスクや社会的リスクに対する備えがある企業は、経済的なショックに対する耐性が高く、長期的な成長が見込めると評価されます。そのため、SXへの取り組みは投資家や株主からの信頼の向上だけでなく、資金面での安定をもたらすでしょう。
5-3. ステークホルダーとのつながりが強固になる
SXの推進は、企業が株主や顧客、従業員、取引先といったステークホルダーとの関係を強化するのにも役立ちます。持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組む企業は、ステークホルダーからの信頼を得やすく、長期的なパートナーシップにつながるためです。
企業の社会貢献活動は従業員の働きがいを生み、モチベーションの向上に寄与します。特に、サステナビリティに対する関心が高い若い世代にとって、SXに取り組む企業は魅力的に映るでしょう。また、ビジネスの信頼性が向上すれば、取引先やパートナー企業との連携も強化され、安定した取引基盤の構築が可能となります。
5-4. 社会の変化に対応できる稼ぐ力がつく
気候変動や感染症の流行、地政学的リスクなど、さまざまな要因が企業活動に影響をおよぼす中、企業はあらゆる経営リスクへ柔軟に対応する力を養う必要があります。不確実性が高まる現代社会において、SXは企業の「稼ぐ力」を強化する重要な取り組みです。
SXにより持続可能なビジネスモデルを構築できれば、社会に急激な変化が起きた際も柔軟に適応しやすくなり、競争優位性の維持・向上が可能となるでしょう。また、SX推進に伴い、新たな価値創出やビジネスモデルの発見に至るケースも少なくありません。
6. SXを導入するデメリット
SXは多くのメリットをもたらしますが、デメリットもいくつかあります。SXの導入を検討する際には、デメリットについても十分に理解した上で、慎重に判断しましょう。以下では、SXを導入する際の主なデメリットを2つ解説します。
6-1. 投資家の理解を得るのが難しい場合がある
SXは中長期的な視点で企業価値を向上させる取り組みであり、短期間では効果が見えにくいケースもあります。そのため、短期的な利益を重視する投資家にとっては、価値が理解されにくい傾向にあります。
投資家からの支持を得にくい取り組みとしては、企業のポートフォリオマネジメントや新規事業への「種植え」などが代表的です。ポートフォリオマネジメントとは、複数事業における経営資源をSXのために最適に分配することです。種植えは、SXの一環としての新しい市場や事業の計画・実施のことを言います。
投資家の理解を得られず、結果として資金調達に苦慮したり投資が減少したりするデメリットが生じる場合もあります。
6-2. 結果が出るまでに時間がかかる
SXは企業の経営方針や事業プロセス、さらには組織文化全体を見直す大規模な変革です。そのため、効果が具体的に現れるまでには相応の時間がかかるのが一般的です。
結果が出るまでに時間がかかることで、経営陣や従業員のモチベーション低下、ステークホルダーからの信頼低下につながるケースも珍しくありません。SXの目的や効果が現れるまでの時間軸を関係者全体で共有し、共通の認識を持つことが重要です。
7. SXに成功するためのポイント
SXの成功には、SX推進の目的を明確にした上で、経営層から現場まで企業全体で一貫したサステナビリティへの取り組みが必要です。また、SXの導入にはデジタル技術の効果的な活用も欠かせません。SXを支える技術として代表的なのは、IoTやAIなどです。
以下では、SXに成功するためのポイントを3つ解説します。
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7-1. 中長期的な収益基盤を維持・強化する戦略を模索する
企業がSXを推進する上で重要なのは、中長期的な収益基盤の強化です。企業の「稼ぐ力」の持続化や強化を図るには、企業の強みを生かした競争力のあるビジネスモデルを築く必要があります。
そのためには、事業ポートフォリオの見直しや、新たなビジネスチャンスの探索が必要です。また、収益性の高い事業に重点を置くと同時に、コストの見直しや効率的な経営の追求も大切です。
7-2. 経営にサステナビリティの視点を取り入れる
SXにおいては、社会全体のサステナビリティを重視した経営目標が欠かせません。経営にサステナビリティの視点を取り入れることで、利益の追求にとどまらず、社会的価値も提供できる企業を目指すことができます。
たとえば、環境への負荷を低減するための技術導入や、地域社会への貢献活動などです。社会や環境にポジティブな影響を与えられれば、社会的信頼を獲得でき、結果的に企業のブランド価値を高めることにもつながるでしょう。
7-3. 投資家との継続的な対話を通じて信頼関係を築く
SXを成功させるには、投資家との継続的な対話を通じた信頼関係の構築が必須です。SXは短期的な利益には結びつきにくいため、投資家にはSXの意義や中長期的なメリットを理解してもらう必要があります。
積極的に対話を行い、長期的な視点から企業価値の向上を目指す姿勢を示せば、投資家からの信頼を得やすくなるでしょう。また、透明性の高い情報開示や具体的な計画の共有を通じ、持続的な協力関係を築く努力も重要です。
8. SXの実現に必要なダイナミック・ケイパビリティ
SXを成功させるには、企業が変化する外部環境に迅速に適応し、内部を柔軟に改革する能力が求められます。SX推進において重要な能力こそが「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」です。以下では、SXの実現に必要なダイナミック・ケイパビリティについて解説します。
8-1. ダイナミック・ケイパビリティとは
ダイナミック・ケイパビリティとは、企業が急激に変化する外部環境に対応しつつ、自己変革を行う能力を指します。カリフォルニア大学バークレー校のデイヴィッド・J・ティース教授が提唱した概念です。経済産業省の「製造基盤白書(ものづくり白書)2020年度版」においても、重視すべき経営戦略論として紹介されました。
出典:経済産業省「2.企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化」
ダイナミック・ケイパビリティにより、企業は環境変化に対して俊敏に適応し、自社の経営資源を再編成して競争優位を保つことが可能になります。企業が成長を維持し、SXの目標を達成するためには、「企業変革力」の向上が必要不可欠です。
8-2. ダイナミック・ケイパビリティにおける3つの能力
ダイナミック・ケイパビリティを構成するのは、以下の3つの能力です。
・感知力(Sensing)
感知力は、新たな機会や脅威、トラブルを早期に察知する能力です。AIやデータ分析を通じて市場や技術動向を調査し、自社にとって有利なチャンスやリスクをいち早く把握する力を指します。
・捕捉力(Seizing)
捕捉力は、感知した機会や脅威を迅速に捉え、企業の現状の資産や技術を再編成して競争力を得る能力です。ダイナミック・ケイパビリティの中核ともなる能力で、現状のデータやテクノロジーに依存するだけでなく、将来を見据えて情報を収集する力や、技術の変化に対応する力のことを指します。
・変容力(Transforming)
変容力は、新しい環境に適応するために組織の構造を見直し、持続可能な形に進化させる能力です。組織内のリソースを再配分し、イノベーションを推進する新しいプロジェクトチームを構築することなどを指します。
出典:経済産業省「2.企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化」
感知力・捕捉力・変容力の3つがダイナミック・ケイパビリティの根幹を成す能力であり、企業が変化に対応しながら成長を続けるために必要な要素です。
8-3. ダイナミック・ケイパビリティを強化するポイント
ダイナミック・ケイパビリティの強化には、サステナブルな人材の育成が大切です。感知力・捕捉力・変容力のいずれも、高度なデータ分析能力やイノベーションに対する柔軟な思考を持つ人材が求められます。
また、企業内部でのDXの推進も欠かせません。DXによってデータの収集・分析が効率化されることで、環境変化への迅速な対応が可能となるためです。社内外の情報を的確にキャッチし、活用して迅速な意思決定を行うことで、企業は持続的な競争優位を築けるでしょう。
まとめ
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)は、企業が社会的課題の解決に取り組みながら、長期的な成長を目指す新しい経営の在り方です。気候変動や貧困、経済格差といった課題への対応を、競争力強化の機会と捉え、持続可能性を軸にしたビジネスモデルへの変革を進めることが求められます。
サステナブルな経営は、投資家や顧客からの信頼を高めるだけでなく、社員の士気向上や新たな市場開拓にもつながります。未来志向の経営を実現し、社会に貢献しながら成長したい方は、ぜひSXを経営戦略に取り入れ、持続可能な社会づくりの一端を担いましょう。
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