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【講演編】AI時代の学校改革とDX〜ミライの学校の創り方〜|オンライン

【講演編】AI時代の学校改革とDX〜ミライの学校の創り方〜|オンライン

2025年02月20日掲載
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。
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2024年11月13日、KDDI まとめてオフィス株式会社は、一般財団法人活育財団の代表理事である日野田直彦氏を講師に迎え、「AI時代の学校改革とDX〜ミライの学校の創り方〜」をテーマにしたオンラインセミナーを開催した。教職員さま約30名が参加し、"学校立て直し請負人"とまで呼ばれる日野田氏の話に耳を傾けた。

「講演編」では、一般財団法人活育財団 代表理事 日野田 直彦氏によるご講演の様子をお届けする。

~質疑応答編はこちら~

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はじめに

一般財団法人活育財団 代表理事 日野田直彦 氏

<登壇者プロフィール>

一般財団法人活育財団 代表理事
日野田直彦 氏

主な経歴

2008年 私立学校の立ち上げに関わる。
2014年 最年少の民間人校長(当時36歳)として、大阪府立箕面高等学校に着任。
3年目には海外トップ大学への進学者を出すなど、顕著な成果を出す。
2018年 定員割れを起こし、学習塾が出す偏差値が「判定不能」だった武蔵野大学中学校・高等学校の校長に着任。
2020年 系列の武蔵野大学附属千代田高等学院校長となり、募集停止をしていた千代田女学園中学校を千代田区国際中学校として再開する。
現在 一般財団法人活育財団の代表理事として、教育機関への支援や、海外進学の情報提供など、「ミライの学校」の構築に取り組んでいる。

一般財団法人活育財団 HP:https://katsuiku.org/

★上記のリンクから、日野田様がご登壇されたイベントレポートもご確認いただけます。

教育におけるDX化は目的ではなく手段

冒頭、日野田氏は「教員の仕事は、学校改革や子どもたちの力を育成すること。DXはそのための手段であり、目的ではないことを前提に聞いてほしい」と述べ、講演が始まった。前半では、主に教師と生徒の意識づけの重要性について語った。

まず、日野田氏は、2050年の未来を見据えて子どもたちを教育するためには「思い込みを捨てましょう」と教員に呼びかけた。そのうえで、世界の人口に関するクイズを出題。多くの人が選択肢の「A」か「B」を選ぶと考えられるが、すべての答えが「C」であることを明かした。また、タイの平均寿命が77.8歳になっていることを紹介。かつては開発途上国とされていたタイが、すでに日本とほとんど変わらない平均寿命になっていることを例に挙げ、固定観念にとらわれることの危険性を訴えた。

そして、日野田氏は、これまでの学校教育について「資本主義社会における労働者を大量生産するシステムでしかなかった」と評価し、「日本の学校にはオーナーシップが足りない」と指摘。子どもたちがオーナーシップを持つためには、「型を覚え、使い、破る」という「守破離」の概念が有効で、基礎を重視しながら発展させていくことを重視すべきとの見解を示した。

さらに、日野田氏は、日本が直面している社会課題からも、発想の転換が必要だと訴える。

人口が増加している新興国はGDPの成長が著しく、近い将来日本のGDPを上回ると予測されている。また、東京都や大阪府の中学生の数はピーク時から半分以下にまで減少している。こうした状況を踏まえ日野田氏は「日本にDX人材が必要なのは当然のこと。子どもたちの未来を作る教員はDXから逃げてはいけない」と述べた。

続いて日野田氏は、日本財団による18歳を対象とした「国や社会に対する意識調査」の結果を紹介。「自分で国や社会を変えられると思う」の項目が、日本では18.3%と非常に低いことを挙げ、「これが我々の教育の結末。保護者も含め全員が認識した方がいいと思う」と警鐘を鳴らした。

さらに「自分の国について、どう考えていますか?」という問いに対し、「日本は良くなる」と答えた割合が10%にも満たない状況を受け、当時校長を務めていた日野田氏は、「9割の人が諦めているならば、君たちが思うように日本を良くしようとすればいい」と生徒に向けて呼びかけた。すると、その後のアンケートで9割の生徒が「自分が社会を変えられる」と回答したという。「ひとつの言葉によって子どもたちの受け止め方は変わる」と語り、教員が子どもたちをポジティブな方向へ導く重要性を強調した。

日野田氏はこれまで校長を務めた際、「失敗を恐れずに挑戦する人が一番偉い。失敗した人を全員で応援しよう」と生徒に呼びかけてきたという。また、教員に対しても「何回も失敗してください。失敗する姿を生徒に見せてください」と伝え、学校全体で挑戦を推進してきたと述べた。

また、1960年代の日本が強かった理由として松下幸之助氏の言葉「ほな、やってみなはれ」を引用。「経営者が責任を取り、若い人が挑戦できたから強かった」と述べ、子どもたちに失敗を恐れず挑戦することの大切さを伝える必要性を訴えた。

DXも授業も"ジブンゴト化"が鍵

講演の中盤では、日野田氏がこれまでに実践してきた学校改革の事例を挙げ、具体的な手法を紹介した。

日野田氏は、2014年に大阪府立箕面高等学校の校長に就任した際、学校改革の取り組みとして新たなプロジェクトを進めようとしたが、教員からは「無理です」「できません」「分かりません」「いかがなものか」といった反応が相次いだという。その結果会議が長引き、毎回3時間ほどかかる状況が続いていた。そこで日野田氏は「各学年や各部署が責任を持って提案したことは、やらせてあげましょう。失敗したら校長である私の責任です。チャレンジするマインドを持った教員集団の方が強いと考えるので、みんなで覚悟を決めて取り組みましょう」と語りかけた。この言葉で教員も安心し、さまざまなプロジェクトがボトムアップで動き始めたという。

そのプロジェクトの一つが、大阪府の「骨太の英語力養成事業」の指定校に選ばれたことを契機に、英語教育に注力した取り組みである。当時、箕面高等学校は地域で4番手、予備校の偏差値評価では50程度の標準的な学校だったが、掲げられた目標はTOEFLの得点で東大生の平均を超えるものだった。この目標を達成するために考え出された手法が、外部の英会話教室の講師に意図的に下手な授業をしてもらうというユニークなものだった。日野田氏は生徒と教員に対し「自分で話して、説明できなければ、できたことにはならない。講師にフィードバックを行い、自分たちで授業を乗っ取って代わりに進めていこう」と呼びかけた。これにより、講師から一方的に教わる"他人事"の授業ではなく、生徒自身が学んだことを教える"ジブンゴト化"へと意識を転換させていった。この手法は、英語に限らずDXの推進や、他教科でも有効だと日野田氏は強調する。

導入当初は順調にいかなかったというが、2年目には模試で英語の偏差値が65以上の生徒数が2倍以上に増加。さらに、3年目には生徒が授業時間の半分を担当するまでに成長したという。その結果、TOEFLの成績を大幅に向上させることに成功し、加えて、テスト対策や補講、補習を完全に廃止することができた。日野田氏は「自分でやらなければならない状況になれば、日本人は優秀だからできる。補講などを行えば行うほど、それが他人事となり、自ら取り組まなくなる。教員は、生徒が自分で学ぶためのシナリオを作ることが一番大事だと思う」と述べた。

DX化は、小さく始めて大きく育てる

日野田氏は、箕面高等学校で、校務のDX化にも取り組んだ。

「DX化は、校長からトップダウンで命令するのではなく、少しずつ導入していく方がいい」と語る。教員の時間外労働が深刻な問題であったため、業務の効率化を図る目的で自動採点システムを導入した。定期テストをマークシート方式に変更し「使いたい方は使ってください」と、強制せずに選択肢として提供した。

導入直後、若い教員3人が使ってみたところ、わずか15分で採点が終了し、自動採点に否定的だった教員の考えも一変したという。日野田氏は「教員がこれまで大事にしてきたものを大事にしたいという考えは、私にも分かる。ただ、本当に良いものだったら使いたいと思ってくれる」と話す。

その結果、自動採点システムを利用する教員が徐々に増え、最終的には平均年齢56歳の教員の多くが使用するに至った。従来、苦しかった定期テストの採点の時期が「楽だ」と感じるほど効率化され、時間外労働の大幅削減に成功したという。

また、日野田氏は、赤字が続き定員割れを起こしていた学校を立て直した経験をもとに、改革を進めるうえで実践した取り組みを紹介した。教員同士が腹を割って話し合える関係を築くために、苦手なことをお互いにさらけ出すワークショップを実施したり、疲弊した様子の教員には夏休みを強制的に取らせたりしたという。「教員がキラキラ輝いている姿を見せた方が、生徒が勉強しようと思える」とし、教員に対して積極的に自分を表現することの重要性を呼びかけた。さらに、「改革を実行できるのは若い世代である」との考えから、生徒に学校改革の企画書を作らせ、教員はリスクヘッジやマネジメントに専念すべきと提案した。

教育について、日野田氏は「みんなで困って、みんなで解決することを覚えること自体が教育であり、点数をとることは目的ではなく、手段にすぎない。生徒たちには自分の人生の舵取りができる力を身につけてもらうことが重要」と述べた。そして、現在の日本の状況を、「課題先進国であり、世界最先端の問題が起こっている国」と位置づけ、「『日本を救えたら、世界を救う勇者になれる。こんな面白い話はない』と伝えることで、子どもたちをワクワクさせられるのではないか」と語った。

講演の終盤では、DX化についての話が展開された。まず、日野田氏は、よく尋ねられる3つの質問を取り上げ、それぞれに回答した。

最初の質問である『何から始めたらいいのか?』について、日野田氏は「タブレット端末を使ったからITではない」と述べ、コンピューターの基礎的な仕組みを理解する重要性を強調した。「コンピューターはオンとオフの2種類の電気信号で動いている。この基礎を理解することが必要だ」とし、中高生の段階で一度はロボットやコンピューターを作る経験をするべきだと提言した。

次に『なぜしなくてはならないのか?』という問いについては、「GAFAのような企業が求める人材は、コンピューターの本質を理解し、やさしくなれる人」と述べた。例として「コンピューターが故障した際に、原因を把握するとともに何かを発見するようなことが求められている」と説明。また、生成AIについては、自分で使ってみることで「ロジックフローやレイヤー管理、アーカイブといった要素を少しずつ理解していくことが重要だ」と指摘した。

最後に『高校卒業段階で必要なデジタル人材像とは?』という質問に対しては、「コンピューターに使われるのではなく、使って楽しむこと」と回答。「最終的に一番重要だと思っているのは、鉄腕アトムやドラえもんのように、コンピューターと友だちになることだと思っている」とまとめた。

※ GAFA...米国の巨大IT企業Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonの総称。

続いて日野田氏は、DX化などの学校改革を進めるにあたり、自身の経験からポイントとなった4点を紹介。(1点目に、「小さく始めて大きく育てる」、2点目に、「失敗をお互いに応援する」、3点目に、「勝手に『無理』だと決めるけない」、4点目に、「他社の力を借りまくる」)

2030年までにできることとして「一点突破・全面展開」「困ったときには徹底的に真似をする」など、「教育者が楽しんでやるべきだ」と話した。

最後に日野田氏は「教育現場は困っていることだらけだと思う。みんなで助けあいましょう」と協力を求めることを呼びかけた。そして、DX化や学校改革は「まずは一歩ずつ踏み出し、小さく始めて、大きく育てることからはじめましょう」と講演を締めくくった。

~質疑応答編はこちら~

最後に

今回のセミナーで日野田氏が話した「思い込みを捨てる」「ジブンゴト化する」「小さく始めて大きく育てる」という3つのポイントは、授業やDX化、さらには学校改革全般に共通する重要な心得であると感じました。

特に印象に残ったのが、赤字と定員割れが続く学校の校長に就任した際のエピソードです。他校の教員から「お手並み拝見だな」と言われたことに対し、日野田氏が「子どもは国の宝であり、みんなで助け合うのが教員の矜持ではないか」と話したことから、DX化においても学校の枠を超えた助け合いがいかに重要かを改めて認識することができました。

KDDI まとめてオフィスも、その一端を担えるよう、これからもセミナーや学校交流会などのイベントを開催するなど、学校DX化の支援に積極的に取り組んでまいります。

学校教育におけるDXに関するご相談も随時お受けしています。DXについてお悩みのことがあればお気軽にご相談ください。

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