2024年11月13日、KDDI まとめてオフィス株式会社は、一般財団法人活育財団の代表理事である日野田直彦氏を講師に迎え、「AI時代の学校改革とDX〜ミライの学校の創り方〜」をテーマにしたオンラインセミナーを開催した。教職員さま約30名が参加し、"学校立て直し請負人"とまで呼ばれる日野田氏の話に耳を傾けた。
「質疑応答編」では、一般財団法人活育財団 代表理事 日野田 直彦氏と当日セミナーに参加された学校教職員の皆さまによる質疑応答および座談会の様子をお届けする。
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はじめに
<登壇者プロフィール>
一般財団法人活育財団 代表理事
日野田直彦 氏
主な経歴
2008年 | 私立学校の立ち上げに関わる。 |
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2014年 | 最年少の民間人校長(当時36歳)として、大阪府立箕面高等学校に着任。 3年目には海外トップ大学への進学者を出すなど、顕著な成果を出す。 |
2018年 | 定員割れを起こし、学習塾が出す偏差値が「判定不能」だった武蔵野大学中学校・高等学校の校長に着任。 |
2020年 | 系列の武蔵野大学附属千代田高等学院校長となり、募集停止をしていた千代田女学園中学校を千代田区国際中学校として再開する。 |
現在 | 一般財団法人活育財団の代表理事として、教育機関への支援や、海外進学の情報提供など、「ミライの学校」の構築に取り組んでいる。 |
一般財団法人活育財団 HP:https://katsuiku.org/
★上記のリンクから、日野田様がご登壇されたイベントレポートもご確認いただけます。
質疑応答
講演のあと、参加した教職員さまからの質問に日野田氏が答えた。
[質問1]
DXが手段ではなく目的になってしまっており、結局何をやればいいか分からないといった状況になってしまっています。そのようなときに、どのように動くことで活動へのヒントや目標が見つけやすくなりますか?
[日野田氏の回答]
武蔵野大学中学校・高等学校で7年ほど前にタブレットを導入した経験から、生徒の発達段階に応じてできることは変わってくる。DXの成長段階に何を充ててあげたらいいかを考え、中学生の場合は自由な発想を学ぶことと、守破離の「守」。例えば、総合的な学習の時間で、校内の写真を撮ってきてもらい、どうしてその写真を撮ってきたかをプレゼンする。高校生の場合は、言語活動が充実してくるので、例えばみんなが書いたエッセーをタブレットで共有してフィードバックをもらうという形をとった。中学生は直感で分かるものを中心に使い、高校生は議論するためのツールとして使用した。タブレットの導入は、無理をせず小さく始めることが重要。使用していくうちに生徒や教員が面白いと感じ、学ぶための手段として自分たちでタブレットの使い方を考えるようになっていった。
[質問2]
高校卒業時点で目指すべきデジタル人材像は?
[日野田氏の回答]
デジタル人材像については、あまり目標を高く設定してしまうと皆さん苦しくなると思う。私は2つを経験しておくことが重要だと考えている。1つ目は、チームで作業するためのツールとして共同編集ソフトをみんなで運用するプロジェクト管理。2つ目は、PythonやHTMLなどを自分でベタ打ちするプログラミング。プログラミングは、可能ならばソフトウェア上だけではなく、ハードウェア上でも行う。Raspberry Piやmicro: bitなどの小さなロボットを使ってコマンドに対してロボットが反応することを少しでも知っていると、世の中の見え方が変わってくると思う。
[質問3]
校内関係者と腹を割って話すためのアドバイスや、うまくいった事例などがあれば教えてください。
[日野田氏の回答]
事例としては、当時箕面高等学校の教員が平均年齢56歳のところに、36歳の校長として行っているので、校長への批判が大変だった。本当はいい人ばかりだが、最初は腹を割って話してくれなかった。そこで、ホウキを持ってずっと掃除していた。掃除をしていると学校の様子がよく見える。困っている教員は、職員室でその様子を絶対に見せないので、教科準備室や部活の前などに「最近どうですか?困っていませんか?」と積極的に話すようにした。校長面談では「校長なので教員をサポートするのが仕事」と言うと、教員から「命令されると思っていました」と返ってきた。「私は命令がしたいのではなく、教員が力を発揮するために環境を整備するのが仕事です」と言うと本音で話してくれた。まずは困っていることから解決していき、徐々に信頼関係が生まれることで「次はこれをやってみましょう」と進展させた。丁寧に積み重ねることが大事だと思う。
[質問4]
私立の学校で付き合いも長いため、今更腹を割るというのが難しいという場合に何かいい方法はありますか?
[日野田氏の回答]
私は公立と私立を両方経験したが、私立は長年いるとなかなか言いにくいこともあると思う。そういうときは第三者を入れるなど、研修で外部の人に来てもらい我々から言いにくいことを言っていただき、聞いてもらうなどすることも1つの手法かもしれない。
[質問5]
腹を割って話すためにどのようなことをやりましたか?
[日野田氏の回答]
私の学校改革の手順を具体的に紹介します。着任して最初は、みんなから話を聞く。夏休みや放課後、土曜などを使い、私が海外で経験してきた「腹を割って問題をどう解決するか」という5日間ぐらいのプロジェクトを始める。これに任意で参加してくれる生徒や教員が絶対にいるので、私のノウハウを教えていく。生徒や教員が腹を割って問題を解決する経験をすると、職員室やクラスや部活で広めてくれる。何回か繰り返すことで信頼関係が生まれ、そこではじめてDX化やグローバル化を導入する。人はつながって初めて前に進むと思うので、まずは腹を割って本気でやること。いい教育、いい社会を作るためにはいい議論をしようという状況を作ればDX化の導入は大きな問題ではなくなる。順番が大事だと思います。
[質問6]
全教職員が取り組みたくなるようなICTやAIの活用法はありますか?
[日野田氏の回答]
生徒がプロジェクトベースで動いてくれることの1つにICTやAI活用、DXがあったらいいなと考えている。そうでないと、できない子がはみ出たり、教員が苦しくなったりする。私は全員ができなくてもいいと言ってきた。ただ、少しはできた方がいいし、助けてもらったらいい。武蔵野大学中学校・高等学校の教員が3〜4年目のときにチャレンジが楽しくなり「Mu-1グランプリ(エムユーワングランプリ)」というものを始めた。生徒が、好きなことや一生懸命取り組んだことなどを精一杯プレゼンするというもの。ダンスやパソコンなどが得意な子が、ここまでやりましたとみんなの前でプレゼンする。私はそういうのでいいと思う。それを、教員が逆に学んでもいいと思うし、互いに学ぶことを前提にやっていくという雰囲気作りが重要。多様な教員がいるのが学校なので、例えばICTが得意な教員もいれば、苦手な教員もいる。その中で、仕事を減らすうえで、最低限ここだけは校務をDXしましょうと決める。しかし「これ以上は無理ですよね」と腹を割って話す。対話を丁寧に積み重ねることが大事だと思う。
[質問7]
生成AIを活用した授業事例や業務改善事例があればご教授ください。
[日野田氏の回答]
生成AIと言うと難しいので「相手が、鉄腕アトムかドラえもんだと思ってやりませんか?」と言っている。例えば「ドラえもんに旅行のアイデアを作ってもらおう」や「できるだけいいアイデアを2人で作ってみよう」など。コンピューターと対話するための機会として行う。生成AIとのやり取りを全部プリントアウトし、『こういうやり取りをしたらこんなのができました』というようなものでいいと思う。子どもたちは勘が鋭いので、使っているうちに仕組みを理解していき、最終的には、プロンプトの作り方につながっていくと思う。
[質問8]
日野田教員がお考えになる「DXハイスクール」の本質はどこにあると思いますか?
[日野田氏の回答]
「DXハイスクール」というよりも、教育の本質はワクワクイキイキだと私は思っているので、DXはその中にある手段だと思い続けている。学校という空間を越えて他校とつながりやすくなった現在は、フィリピンやタイ、マサチューセッツ工科大学ともリアルタイムで交流できる。日本人の価値観だけで考えると無理だと思っていたことが、常識の幅が違う海外の子どもたちとつながることで、無理ではなくなる可能性がある。地域間格差も乗り越え、社会問題の解決に乗り出せる時代が来たということは本当に素晴らしいことだと思っている。
[質問9]
生徒や教員のワクワクをどう把握されていましたか?
[日野田氏の回答]
ワークショップで、「今日できたこと」「今日できなかったこと」「明日やりたいこと」の3つを書かせてきた。モチベーションやオーナーシップが上がってくると、内容が深くなってくる。これは、パソコンを使わずあえて手書きさせ、教員が生徒の感情を読み取ることができるようにしている。
教職員からの質問が続く中、終了時間となり、オンラインセミナーは幕を閉じた。
最後に
今回のセミナーで日野田氏が話した「思い込みを捨てる」「ジブンゴト化する」「小さく始めて大きく育てる」という3つのポイントは、授業やDX化、さらには学校改革全般に共通する重要な心得であると感じました。
特に印象に残ったのが、赤字と定員割れが続く学校の校長に就任した際のエピソードです。他校の教員から「お手並み拝見だな」と言われたことに対し、日野田氏が「子どもは国の宝であり、みんなで助け合うのが教員の矜持ではないか」と話したことから、DX化においても学校の枠を超えた助け合いがいかに重要かを改めて認識することができました。
KDDI まとめてオフィスも、その一端を担えるよう、これからもセミナーや学校交流会などのイベントを開催するなど、学校DX化の支援に積極的に取り組んでまいります。
学校教育におけるDXに関するご相談も随時お受けしています。DXについてお悩みのことがあればお気軽にご相談ください。
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