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PHS(Personal Handy-phone System)は、1990年代に広く普及した無線通信システムです。当時、携帯電話の普及前に医療施設や介護現場で重要な通信手段として利用されていました。しかし、2023年3月末にすべての公衆PHSサービスが終了し、医療や介護の現場ではその代替手段を検討する必要に迫られています。
当記事では、PHS終了の背景や病院および介護現場への影響、そして最適な代替手段について詳しく解説します。
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1. 病院でのPHS終了が与える影響とは
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PHSとは、Personal Handy-phone Systemの略で、1990年代に普及した無線通信システムです。公衆PHSサービスは、携帯電話が普及する前には広く利用され、医療施設や介護現場でも定着していましたが2023年3月末に終了しました。
以下では、PHSが終了になった背景や病院業務への影響、対応策などを紹介します。
1-1. PHS終了の背景
PHSは、持ち運びができる通信手段として、1995年頃から広く普及し始めました。しかし、携帯電話やスマートフォン(スマホ)の台頭によって、PHSの契約件数は年々減少しています。
しかし医療現場では、携帯電話が普及した後も、PHSが主流となっていました。なぜなら、携帯電話の電波は、医療機器に影響を及ぼす可能性があったためです。現在では、5G回線やWi-Fiの普及によって電波干渉の少ない通信が利用できるようになり、医療用PHSのニーズは減少しています。
契約件数の減少によるPHS端末、それに付随するアンテナの高騰と、技術進歩の恩恵を受けにくいという2つの要因から、PHSのサービス維持が困難になり終了しました。
それでもPHSを利用している医療現場はまだ多く、PHSサービス終了は病院業務に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
1-2. 病院業務への影響
2020年に実施した厚生労働省のアンケート調査によると、業務用端末として院内PHSを導入している病院は全体の83.9%となっており、広く普及していると分かります。
法人向けの公衆PHSサービスは2023年3月末をもって終了しましたが、小型の基地局を病院内に設置して利用する構内PHSは引き続き利用可能です。しかし、サービス終了に伴い、PHSの製造メーカーが減少することで、さらなるPHS端末の高騰及びアンテナ、電話交換機のコストも高止まりしてしまい、かつ、チャットなどのアプリケーションの拡張性がないPHSに投資を継続するのか、スマートフォンに切り替えるのか、病院はその選択の岐路に立たされています。
また、代替の通信手段といっても、PHSからスマホへ切り替えるだけ、といった単純な話しではないという点に注意が必要です。
導入する端末は利用したいアプリケーションと互換性があるか、想定するすべての機能を利用するに堪えうる端末スペックを備えているか、通信環境の見直しは必要か、コストは最適かなど、先々も見通した計画を立てておかないと、スマホに切り替えはしたものの想定よりもコストがかかった、通信品質が不十分で接続が不安定だ、使うつもりでいたアプリケーションが使えない、といった課題が後から出てくる可能性があります。切り替えを検討する際は、これらを包括的にサポートすることが可能な業者を選定することも重要です。
また、2007年11月以前に製造された通信機器は、「旧スプリアス」と呼ばれる不要電波が含まれるため、日本政府によって使用禁止が決定しました。古くからPHSを利用している病院では、通信設備の医療機器との連携を見直す手間だけでなく、新たな通信機器を導入するコストもかかります。病院経営にとって、負担となることが予想されます。
出典:厚生労働省「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き」
1-3. 医療スタッフの対応策
PHS廃止に伴う病院業務への影響を考えると、医療スタッフはPHSに代わる連絡手段を早急に確保することが必要です。
今後はPHSに代わってスマホやタブレットの活用、院内専用の無線通信システムの導入などが検討されています。新しい通信システムを導入するには、従来のPHS利用時よりも、利便性と安全性を確保しなければなりません。
医療機器の中には、電磁波の影響を受けやすいものもあります。そのため、新しい通信システムが医療機器に干渉しないか確かめることが大切です。しかし、現在ではスマホやタブレットの性能が上がり、電波環境も安定しており、医療機器の近くに置かないなどの運用を行えば影響は少ないという総務省の見解がでています。
また、古い無線設備を利用している場合は、新スプリアス規格への切り替えや、新たな通信手段への移行が必要になる場合もあります。
2. 介護現場におけるPHS代替案の検討
PHSは、医療現場と同様に介護現場でも広く利用されてきました。PHSのサービスが終了になり、旧スプリアス規格のPHSもいずれ利用できなくなるため、介護現場でもPHSの代替えを検討しなくてはなりません。
以下では、PHSの代替手段や代替のメリット・デメリットを紹介します。
2-1. PHS代替案の必要性
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介護現場では、PHSは重要な連絡手段として利用されてきました。特に高齢者が多く入所する施設では、緊急時の迅速な対応が求められるため、PHSのサービス終了は大きな問題になります。
先述のとおり、サービスの終了したPHSは、電波の安定性や通話品質が低下するリスクがあります。重要な連絡の際に、相手の言葉が聞き取れないと、人命に関わる恐れもあるでしょう。また、通信機材の買い替えやPHSのメンテナンスが、高額になる可能性も考えられます。
PHSの代替案の検討は、現場の業務効率と入所者の安全を考えると、必要不可欠と言えます。
2-2. 主なPHSの代替手段
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PHSの主な代替手段は、以下のとおりです。
- スマートフォン
- VoIP(Voice over Internet Protocol)
- 構内PHS
- Wi-Fi対応の無線通信システム
VoIPとは、インターネットのような回線を利用して音声通話をするシステムです。
現在では、介護現場の仕事に活かせるさまざまなスマホ向けのアプリケーションが登場しています。スマホは、通話手段としてだけでなく、施設内の監視カメラの確認やインターフォンの応答などもでき、スムーズなコミュニケーションが実現可能です。また、通話のみならず、WEB会議やテキストチャットという新たな連絡手段も手軽に利用できます。
それぞれの代替手段には通信の安定性やコスト、導入の容易さなどさまざまな違いがあります。適切な代替手段を選ぶことが大切です。
2-3. 各代替手段のメリットとデメリット
以下では、代替手段のメリット・デメリットをそれぞれ紹介します。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
スマートフォン | 汎用性が高い | ランニングコストが高い |
VoIP | 端末導入コストが安い | インターネット接続が必須 |
構内PHS | 通信が安定している | メンテナンスにお金がかかる |
Wi-Fi対応通信システム | 通信が安定している | 音声通信の品質と相性が悪い |
スマホは、機能性の拡張性の高さが魅力の代替端末です。例えば電子カルテを導入し、スマホでチェックしたり、チャットツールを導入しコミュニケーションをとったりと、業務効率化に役立つ機能を後から追加して利用可能です。PHSと比較して汎用性が高いと言えるでしょう。しかし、導入前にきちんと確認をしないと医療機器への電波干渉や、ランニングコストが想定よりも高くなる可能性があるなど課題があります。
構内PHSやWi-Fi対応通信システムは、専用の通信環境を準備しなければなりませんが、通信の安定性は高く、介護現場でも利用しやすい通信手段です。しかしながら、先述のようにメンテナンス費用の高止まりや、音声通信の品質と相性が悪いといったデメリットも存在します。
3. 病院と介護施設での実際の代替導入事例
以下では、実際にPHSの利用を辞め、代替の通信手段を導入した事例を2つ紹介します。
導入事例1 |
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PHS端末を利用していた大阪府の病院が、スマホアプリでの通信システムに変更した事例です。 病院では内線端末と外線端末の2台が必要で、PHSの機能に限界を感じていた状況です。PHSでの通話に途切れもあったため、代替手段を導入しています。 導入後は、スマホ端末1台で内線・外線の対応ができるようになりました。スマホの機能を活用して、電子カルテの閲覧もできるようになり、業務効率化を達成しています。 |
導入事例2 |
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PHSと業務用無線機を利用していた介護施設が、スマホアプリを使用した通信システムに変更した事例です。 無線機は利用者がどこにいるのか共有するために導入されましたが、大きく持ち歩きにくかったため、従業員が携帯していない場面が多くありました。そのため、PHSで利用者の位置を確認する必要があり、情報共有や利用者の対応にとても時間がかかっていたことが問題点として挙げられます。 スマホアプリでの通信システムに変更してから、職員の連携が取りやすくなりました。また、スマホは利用者の急変時の対応にも活躍しています。電話連絡でスムーズに情報を共有できるため、緊急時に手分けして対応できるようになりました。 |
病院や介護現場で利用できるスマホアプリには、さまざまな種類があります。機能や料金、導入方法などが異なるため、PHS利用時の問題点を挙げ、問題を解消できるアプリを選択することが大切です。
関連サービス | : | 携帯電話・サービス |
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まとめ
PHSのサービス終了に伴い、医療や介護現場では代替手段の検討や、導入に向けた準備など、迅速な対応が必要です。
病院ではスマホやタブレット、専用の無線通信システムが有力な代替手段として検討されており、通信の安定性と利便性が重要視されています。介護現場でも同様に、スマホの導入と専用アプリの活用や、VoIPなどの新しい通信システムが注目されています。
患者や入所者の安全を確保しつつ、医療や介護の質を高めるためには、各現場のニーズに合わせた最適な通信手段を選び、業務効率化の実現と安全性を向上させることが重要です。
しかしながら、代替となる通信手段を決定するには検討することが多く、日常業務もあるなか担当者さまの負荷は非常に重たいものと言えます。KDDI まとめてオフィスでは、KDDIが長年培った高品質でセキュアな通信を軸に、医療・介護の分野における、最適なサービス・ソリューションを豊富にご用意し、ワンストップで提供しています。PHSからスマートフォンへの切り替えや、通信環境の見直しなど、お困りのことがございましたらお気軽にご相談ください。
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