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教育業界の課題とは?現状・将来や今後必要になるDXについて解説

教育業界の課題とは?現状・将来や今後必要になるDXについて解説

2025年02月28日掲載
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。
教育業界の課題とは?現状・将来や今後必要になるDXについて解説

教育業界は現在、少子化や教員不足、そしてデジタル化の遅れといった多くの課題を抱えています。一方で、これらの課題に対応するためにデジタルトランスフォーメーション(DX)やEdtechの導入といった形で教育業界は変革をしている状況です。また、時代にあわせて個々の生徒の価値を高めるためにリカレント教育やSTEAM教育など新しい形の教育が始まっています。

この記事では、教育業界が抱える課題、および将来予測を通じて、教育業界がビジネスを持続するのにどのようなDXが必要になるのか解説します。

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1. 教育業界の現状と課題

教育業界の現状と課題

教育業界の近年の状況を振り返ると、2020年度に通信教育を中心に市場規模が大幅に伸びたものの、コロナ禍収束後は市場が落ち着いている状態と言えます。矢野経済研究所の調査によると、2023年度の教育業界の市場規模は2兆8,331億7,000万円であり、前年度より0.7%減少する結果となりました。

出典:株式会社 矢野経済研究所「教育産業市場に関する調査を実施(2024年)」

今後、政府の賃上げ政策などを受けて教育業界への投資がある程度回復すると見込まれますが、教育業界が厳しい環境にあることに変わりはありません。教育業界のビジネスで成功するためには、教育業界の現状と現段階における課題をふまえた上で自校・自社に適した戦略を立てる必要があるでしょう。

1-1. 少子化による学校数・在学者数の減少

教育業界における課題の1つとして、少子化の進行に伴い、学校数や在学者数が減少傾向にある点が挙げられます。

【学校数】

小学校 中学校 高等学校
2024年 18,822 9,882 4,774
前年比 -158 -62 -17

【在学者数】

小学校 中学校 高等学校
2024年 5,941,733 3,141,132 2,906,921
前年比 -107,952 -36,376 -11,580

出典:文部科学省「令和6年度学校基本調査結果のポイント」

また、近年は出生数も減少傾向にあります。厚生労働省によると、2023年の出生数は72万7,277人であり、前年(2022年)の77万759人から4万3,482人も減少しています。学校数・在学者数の減少は今後も続くと考えられ、教育業界に大きな影響を与えることが予想されるでしょう。

出典:厚生労働省「令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況 」

1-2. 教員の不足

学校数や在学者数が減少する一方で、教育業界は慢性的な人材不足に陥っています。特に教育現場では、人員不足の傾向が顕著に現れていると言えるでしょう。

NHKの2024年の調査では、43の自治体に存在する小中学校と高校、特別支援学校において、合計2397人の教員不足が起きています。背景には、大量採用世代の定年退職、若手世代の産休・育休取得の増加、特別支援教育のニーズ拡大、病休者の増加などがあります。

出典:NHK「教員の不足人数 年度当初と比べて9月時点では1.3倍にまで拡大」

そのため、文部科学省は教員の待遇改善など、人手不足の解消に向けたさまざまな施策を展開しています。生産年齢人口の減少や制度変更への対応を見込んだ働き方改革も進んでおり、事業者側にも対応が求められている状況です。

出典:文部科学省「「教師不足」に関する実態調査」

1-3. 公教育のDXの遅れ

2019年に文部科学省が提唱したGIGAスクール構想に基づき、近年では教育のICT化に向けた環境整備が各学校で進められてきました。今後は学習塾や予備校などの教育業界の各企業も、公的機関が行うICT教育に合わせたDXが求められます。

一方で、学校が使用するネットワークはつながりにくい場合も多く、現段階では多数の生徒が高頻度で端末を活用する場合にも、ネットワークを原因とする支障がほぼ生じない帯域を満たす学校は全体の2割程度にとどまると言われています。多数の児童生徒が同時に高頻度でICT機器を使用した場合には、ネットワークを原因とするトラブルが生じるケースも少なくありません。

出典:文部科学省「デジタル学習基盤に係る現状と課題の整理(案)」

したがって、児童生徒・教員が授業中に支障なくICT機器を使えるようにするためには、公教育におけるICT環境の整備・DXをさらに進める必要があるでしょう。人材育成を行い、ICTに詳しい人材を各自治体や各学校に確保することも課題の1つです。

出典:文部科学省「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて ~令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境~ ≪文部科学大臣メッセージ≫ 」

2. 教育業界の将来予測

教育業界の将来予測

日本の教育業界は、少子化による影響や教員の人手不足、DXの遅れといった課題を抱えていますが、今後はこれらの課題に対応する形で業界が変化していくと考えられます。ここでは、将来の教育業界・教育市場について予測されている主な変化について解説します。

2-1. リカレント教育の推進

リカレント(recurrent)教育とは、学校教育を修了して社会に出た後も、必要なタイミングで再度教育を受けて仕事と教育を繰り返し行うことです。自分の業務に関わる専門的な知識・スキルを学ぶことを主な目的としており、「社会人の学び直し」ともよばれています。

近年はライフスタイルが多様化し、結婚や出産・育児といったライフステージの変化に応じた働き方を求める労働者・企業も増えてきました。また、人材不足の解消に向けて厚生労働省を中心にリカレント教育を支援・推進する動きもあります。このような背景から、今後はさらにリカレント教育・社会人を対象とする教育の需要が増加すると考えられます。

2-2. STEAM教育への転換

STEAM教育とは、数学や理科、プログラミングなどの理数教育に、文化、倫理、経済などを含む広い範囲で定義された「芸術」を加えた教科横断的な教育を指します。

【STEAM教育の構成要素】

S Science(科学)
T Technology(技術)
E Engineering(工学)
A Arts(芸術)
M Mathematics(数学)

最近ではAIやIoTといった科学技術が急速に進展し、社会が激しく変化しています。今後の教育業界では、STEAM教育を通して、科学的リテラシーや課題発見力、課題解決力、新たな価値の創造に結びつける能力をもつ人材の育成が求められるでしょう。

2-3. 教育DXの進展

教育DXとは、学校がデジタル技術を活用して教育をよりよいものへと改革することを指します。教育DXには、児童生徒の学習のあり方を革新することだけでなく、教員の業務を変革し時代に合った教育を確立することも含まれます。

現在、多くの学校で教科書や宿題のプリント、提出物、学校からのおたよりなどのデジタル化が進んでいる状況です。今後は、ICTを活用した学習データの記録・分析や、教員・生徒間のファイル共有、個性に合った学びの実現、教員や学校職員の業務効率化などさらなる進展が期待されます。

2-4. Edtech分野の伸長

Edtech(エドテック)とは、教育(Education)をAIやビッグデータといった科学技術(Technology)で支援する仕組み・サービスの総称です。ICT活用や教育DXもEdtechに含まれる部分がありますが、Edtechは教育業界にイノベーションを起こすようなビジネス・手法全般を指す点で異なります。

Edtechが広まることにより、個人に最適な学びの提供や学習の自立化、教育の多様化、教員の負担軽減といった効果が期待されています。地域間の教育格差の是正にもつながるため、今後は学校教育(公教育)や学習塾、社会人向けの教育サービスなどさまざまな領域でEdtechが伸長すると考えられるでしょう。

3. 教育業界がビジネスを持続するのに必要なDXの例

教育業界がビジネスを持続するのに必要なDXの例

教育業界や教育関連市場でのビジネスを安定して持続させるためには、将来の教育環境の変化に備えてDX化を進めることが大切です。

たとえば学校では、タブレット端末の配布やデジタル教科書の導入、クラウドサービスの利用により、場所や時間を問わず教科書や資料、教材にアクセスできる環境が整備されつつあります。Web会議システムを利用し、オンラインでの授業やホームルーム活動を行うための機器や設備を整えている学校も少なくありません。

また、eラーニングシステムやAI技術の利用により、学習の個別最適化を進めている学校もあります。理科の実験や歴史上のできごとなどをVR技術で疑似体験し、児童生徒の記憶に残りやすい学習環境を実現している学校・教員も増えてきました。

学習塾や予備校などにおいては、何度も繰り返し授業内容を確認できる録画授業や、オンライン授業の提供を行う教室が増加傾向にあります。AI技術を活用した専用の教育カリキュラムの立案など、児童生徒の学習状況や習熟度、苦手分野などをふまえた学習の個別最適化を実現している学習塾も珍しくありません。

また、入退室管理・通知、学習相談、指導報告などを専用アプリケーションで行い、塾と家庭がスムーズにコミュニケーションできる環境を整備している教室も多くあります。生徒や保護者と長期的な信頼関係を構築でき、退塾や転塾といった事態を防ぐ効果が期待できるでしょう。成績管理や座席管理のICT化は、講師の業務改善にもつながっています。

このように、教育DXは学校や塾をはじめとしてさまざまな領域で広がりを見せています。これからの教育業界で事業を成長させるためにも、将来の教育環境の変化に備えて、自校・自社に合ったDXの推進を検討しましょう。

まとめ

日本の教育市場は現状、縮小傾向にあります。一方で、EdTechを活用した個別最適化の実現や、社会人が学び直しを続けられるリカレント教育の需要拡大といった新機軸は、市場の活性化をもたらす可能性を秘めています。

教育業界の企業や教育機関がこうした流れをうまく捉えられれば、ビジネスチャンスが増え、ひいては教育の質そのものを底上げできるでしょう。多岐にわたる場面でDXが求められている現状を踏まえ、自校ならではの特色ある学習環境を築くことは、少子化の時代でもビジネスを持続可能にするカギになります。

※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。