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教育DXの具体的な事例は?取り組み内容や導入時の課題も解説

教育DXの具体的な事例は?取り組み内容や導入時の課題も解説

2025年03月31日掲載
※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。
教育DXの具体的な事例は?取り組み内容や導入時の課題も解説

教育現場では、デジタル技術を活用した学びの変革を進めています。特に「教育DX(デジタル・トランスフォーメーション)」は、単なるデジタル化にとどまらず、教育のあり方そのものを変える取り組みです。文部科学省も、小中高や支援学級を対象に、1人1台の端末と高速ネットワークを提供することによる、個別最適な学びと協同的学びの実現を目指す「GIGAスクール構想」や、高等学校の生徒を対象として、次世代のデジタル人材を育成することを目的とした「DXハイスクール(高等学校DX加速化推進事業)」を推進し、ICTを活用した学習環境の整備を進めています。

当記事では、教育DXの概要やデジタル化との違い、具体的な取り組み、導入事例を詳しく解説します。教育DXによってどのように学びの可能性を広げられるのか理解することで、より教育DXを効率的に進められるでしょう。

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1. 教育DXとは?

教育DXとは?

教育DXとは、学校や教育現場においてDX(デジタル・トランスフォーメーション)化を促進し、教育の質をより高いものへと変革させることです。

教育DXには、手段と目的の2つの視点が存在します。手段としてのDXは、デジタル技術を活用し既存の業務における効率化と最適化を図ることです。たとえば、電話連絡と紙の出席簿への記入で行っていた生徒の出欠状況の記録を、連絡フォームと表計算ソフトの連携により、電子データとして管理し、自動化するといった事例が挙げられます。

目的としてのDXは、ツールやデバイスを活用して学校教育における新たな体制を構築し、児童生徒のさらなる学びへつなげることです。生徒がタブレットやパソコン(PC)等のデジタルデバイスを用いて、これまでにないアウトプットができる状況を作り出すなど、DXによる学びの形は数多く想定されます。

1-1. 教育のデジタル化との違い

デジタル化は、DX化における第一段階の「デジタイゼーション」と第二段階の「デジタライゼーション」にあたります。教育のデジタル化は、教育の場においてこれまでアナログの手法で行っていたものをデジタル的な手法へと切り換えることです。プリントをPDFファイルにして、共有フォルダを介して関係者に送ったり、ノートへの筆記をタブレットに置き換えて、宿題をプラットフォーム上から提出したりする行為がデジタル化の一例です。

目的としてのDXにおいては、デジタル化をふまえ、第三段階として、学習データの収集と分析により教育の質向上を支援したり、デジタル技術の活用によって、地域や経済状況を超え、すべての生徒が質の高い教育を受けられる環境を実現したり、教育現場の組織文化に変革を起こしたりすることが最終的な目標です。

2. 文部科学省が推進している教育DXへの取り組み

教育DXは国策として推進されている取り組みです。文部科学省では、教育分野におけるDXとして初等中等教育においてはGIGAスクール構想を、高等教育ではGIGAスクール構想による端末の一部費用負担や、DXハイスクール事業を推進しています。

ここでは文部科学省が推進するそれぞれの取り組みについて詳しく解説します。

2-1. 初等中等教育

初等中等教育

GIGAスクール構想で行われている主な取り組みは、以下の4つです。

・児童生徒1人1台端末の整備

児童生徒がそれぞれ端末を所持し、授業および自宅学習で活用できる状態を目指す取り組みです。端末の貸与に伴い各教室への充電キャビネットの設置も行われています。

・校内通信ネットワークの整備と高速化

校内LANを整備し、授業でスムーズなICT活用が行える環境を構築する取り組みです。また、Wi-Fi環境が整っていない家庭へのルーターの貸与等も行われています。

・教員のICTスキルの向上

教員がPCやタブレットを用いた授業を円滑に行えるよう研修を行う取り組みです。児童生徒への基本的な端末操作を教授するための指導力の向上も含まれます。

・ソフトウェアの活用

デジタル教科書をはじめとするデジタル教育コンテンツの活用や、文章作成ソフト、プレゼンソフト等の活用を推進する取り組みです。生徒自身に端末を十分に活用する力を付ける目的があります。

出典:文部科学省「(リーフレット)GIGAスクール構想の実現へ」

2-2. 高等教育

高等教育は、高等学校および大学における教育のことです。デジタル人材の育成を目的として、高校ではDXハイスクール事業、大学ではScheem-D(スキーム・ディー)が取り組みとして推進されています。

DXハイスクールでは、ICTを活用して探求的な学びの強化を行うと申請のあった全国の公立および私立の高等学校1,200校程度を対象に補助金を支給します。採択校には、デジタル人材を育てるための具体的な取り組みとして、たとえば情報Ⅱや数学Ⅲおよび数学Cなど理数系科目のカリキュラムを充実させることや、デジタルを活用した分離横断的・探究的な学びの実施、専門校でのデジタルを活用したスマート農業やインフラDX、医療・介護DXなどに対応した高度な専門強化指導の実施と、高大接続の強化が求められています

補助金の主な活用方法はハイスペックPCや3Dプリンターなどの設備投資や、理数分野の専門人材の招請です。補助金の活用目的には、アフターコロナ時代において重要性が指摘されるようになった遠隔授業用の通信機器の整備等も含まれます。

Scheem-Dではデジタル技術を活用し、大学の特色や強みを生かしたアイデアの実現を目指します。教員だけでなく学生や企業とも連携してピッチイベントを行い、他にない学びを模索することが特徴です。理数系の分野に限らず、高い学習効果と主体的な学びの経験が得られることを目標にしています。

※ 採択校に求める具体の取組例(基本類型・重点類型共通)の一部

出典:文部科学省「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」

3. 教育DXの具体事例は?

教育DXと一言で言っても、その取り組みやアプローチは学校によってさまざまです。前例として、各校が抱えていた課題や解決方法を知ることでより教育DXへの理解も深まるでしょう。

ここでは実際に小中学校や高等学校で行われている教育DX推進策と成功事例を紹介します。

出典:文部科学省「令和6年度 高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)事例集」

3-1. 大分県玖珠町立塚脇小学校

小さなデジタル化を試行し、校務にDXを導入する利便性を納得してもらうことで、教職員から主体的にアイデアが寄せられるようになったのが塚脇小学校の事例です。

塚脇小学校では当初DXに対し教員の多くが消極的でした。DXが、校務の効率化に結びつくイメージがうまく共有できていなかったことが一因です。しかし、「とにかくやってみよう」という平原校長先生主導のもと、DX化が職員会議の資料のPDF化から開始されました。

小さなデジタル化をきっかけに、発展したアイデアが教員から寄せられるようになりました。教員のDXに対するモチベーションは徐々に高まり、今では校務DXの多くに教職員の意見やアイデアが反映され業務効率化が進んでいます。

出典:文部科学省「大分県玖珠町立塚脇小学校 1人1台端末で変わる(変える)学校の風景~まずは校務DXから~」

3-2. 光塩女子学院初等科

光塩女子学院初等科では、PCではなくタブレット端末を活用し児童生徒の学習効率や保護者との連携の改善を行いました。

光塩女子学院の初等科では2020年度から1~4年生の生徒に1人1台端末としてタブレットを活用しています。英語や漢字の練習など特定の学習においてはタブレットではやりづらさがあるものの、国語や算数の反復学習がスムーズに行えるようになりました。タブレットを持ち帰り家庭内での学習にも用いているため、保護者が学習の進捗を把握できるようになったことも評価されています。

ランドセルの中身の軽量化や視力の低下対策など課題はあるものの、小学生のうちからICT活用に慣れておくことが後の学習に有利に働くという見解が示されています。

出典:国立情報学研究所「私立小学校におけるGIGAスクール構想を超えたオンライン授業を含むICT教育への取り組み」

3-3. 常翔啓光学園中学校・高等学校

DXのハード面とソフト面のバランスに重点を置いて成功を収めた事例です。

常翔啓光学園中学校では、早くから1人1台端末環境の整備を進めてきました。同校はハード面が充実した時点で、DXの成果がいかに生徒に多くのものを還元できるかに着目し、技術の習熟などソフト面の充実に着目します。教員に対しても専門家を招いた研修によって、確かな指導力の養成を行っている点も特徴的です。

プログラミング講座の開講や、大学入学共通テストを見据えた情報Ⅰの授業内容の充実など、取り組みは多岐にわたります。今後は生成AIの台頭で目まぐるしく変革する社会に対応するために、教員も生徒も学び続ける学校として質の向上に取り組む方針を掲げています。

出典:School S-pot「『DXハイスクール』採択! 中長期的視野でデジタルリテラシーを高める」

3-4. 富士見丘中学高等学校

全生徒が効率的に履修に取り組めるよう高校3年間のカリキュラムにおいて段階的に情報関連の学習を行った事例です。

富士見丘高校では3年生で履修する情報Ⅱを必修科目としました。そこでスムーズな授業を行うため、2年生で情報Ⅱの先行的な学習プランを盛り込んだ選択科目を用意しています。また、複数教科でプログラミングやデータサイエンスに関わる実習を取り入れ、理数系科目への関心や理解を深める試みも行われています。

3Dプリンターや大型ポスタープリンターなどを授業で多用し、「ものづくり」体験を通じたICT学習で生徒の興味関心の醸成を目指す点も特徴的です。教科を超えた横断的な取り組みと、実践的な学習の場の相乗効果で生徒の学びをサポートしています。

出典:文部科学省「【概要・詳細】富士見丘中学高等学校 普通科(令和6年度)」

3-5. 宮城県宮城野高等学校

企業や大学と連携しデジタル技術を学ぶ機会を作ったり、デザインや表現等の分野におけるデジタル活用の方法を模索したりと実践的な特色ある取り組みを行った事例です。

宮城県宮城野高等学校には美術科があり、3Dプリンターや3Dスキャナーを活用したデザイン分野の学びに力を入れています。普通科では大学と連携し、社会で実践されているDXの例を学習する機会があり、単なる学習で終わらないDXのあり方を模索している学校です。

デジタル技術を用いた「バーチャル卒業制作展」や、生徒が小中学校に赴いて行うデジタルデバイスを用いた交流学習など、多様なアウトプットの場も用意されています。充実したデジタル設備を有効活用し情報化の著しい現代社会に対応できる実力の養成に成功した事例とも言えるでしょう。

出典:文部科学省「【概要・詳細】宮城県宮城野高等学校 普通科・美術科(令和6年度)」

3-6. 埼玉県立飯能高等学校

教員への研修を計画的に遂行し、デジタル顕微鏡や生成AIを用いて充実した学習を実現した事例です。

飯能高等学校ではデジタル顕微鏡から得られた画像を用いて、解析法の習得やデータ分析の手法を学ぶ授業を展開しています。画像は生徒の1人1台端末に転送され、各々が解析サイトにアクセスして研究を深めるなど他のデバイス活用も併用して学ぶことが可能です。また探究活動では生成AIを積極的に活用し、有用なデータやプログラムの作成に役立てています。

こうした取り組みの事前準備として、同校では生成AI利用におけるルールの確認が行われました。教員への機器の使用方法、統計学や生成AI技術の習得が計画的に行われたことも、成功の要因です。

出典:文部科学省「【概要・詳細】埼玉県立飯能高等学校 普通科(令和6年度)」

4. 教育DXのメリット

教育DXの実現は、生徒と保護者側にとっても、学校側にとっても、さまざまなメリットがあります。ここからは、生徒と保護者、学校に分けて、教育DXがそれぞれにもたらすメリットを詳しくご紹介します。

4-1. 学校側のメリット

教育DXで得られる学校側のメリットは以下の3点です。

・生徒に合わせた指導ができる

教育DXが進めば、生徒一人ひとりに対して学習データを用いた詳細な分析が可能になります。個別の課題や習熟度に合わせた指導がしやすくなり、より最適な学習内容と機会を提供できるようになるでしょう。

・事務作業の負担が減る

テストの採点や出席状況の確認はデジタル技術を活用することで時間短縮が実現します。ほかにも保護者への連絡をデジタル上で行えば、紙の印刷と配布の手間を省けるでしょう。教育DXは負担が大きいと問題視されている教員の業務を軽減できます。

・感染症をはじめ、あらゆるリスクに備えられる

感染症などを理由に授業ができない場合、1人1台端末とネットワークの環境があればオンライン授業への切り替えがスムーズに行えます。2024年からは全日制課程の高等学校において不登校状態にある生徒に対し、オンライン授業を利用した単位修得を一部認め、進級卒業を支援する制度も開始されました。

4-2. 生徒・保護者側のメリット

教育DXによって得られる生徒のメリットは以下の3点です。

・学習の最適化が可能

教育DXを行うと、教員は各生徒の個別の学習状況がデータ化され弱点や苦手分野を把握しやすくなります。各生徒の状況に応じた学習指導が可能になることで、生徒は行き詰まりを解消し、苦手分野を克服しやすくなるでしょう。これにより、学習意欲の向上も期待できます。

・学びの機会や学べる環境が増える

ネット環境と端末があればどこでも教材に触れられるため、柔軟に学習の機会を設けることが可能です。音声や動画を用いた資料にもアクセスでき、学校外でも充実した学習環境を構築できます。

・学習の成果が見えやすくなる

教育DXでデータを管理すれば、テストや模試などあらゆる成績データを一元管理することも可能です。年単位での成績の推移や学習状況を詳細に把握することで、生徒自身が成果を実感しやすくなるでしょう。評価の根拠がデータで示されることによる、納得感も増します。

教育DXがもたらす生徒側へのメリットは、学習環境や学習体験が飛躍的に充実し、より豊かな学びの機会を得られる点にあります。さらに、教育DXがもたらす保護者のメリットは以下の2点です。

・学習の進捗を把握しやすい

学習状況や子どもの得意分野、苦手分野がデータ化されれば、一目で状況を把握できるようになります。自宅でのサポートの参考にもなるでしょう。

・学校とのコミュニケーションを取りやすくなる

デジタルツールを用いた連絡手段であれば、仕事や外出によって学校からの電話連絡に対応できなかったということも起こりません。欠席や遅刻の連絡もデジタルツールを使えば簡単に行えます。デジタル活用による保護者と担当教員の円滑なコミュニケーションの実現は、学校との信頼関係の醸成にも役立ちます。

5. 教育DXを進める際の課題

教育DXを進める際の課題

教育DXによってもたらされるメリットは数多くありますが、推進のためにはさまざまな課題も存在します。教育DXへの理解を深め、オンライン教育についての方針を立てなければ、高額な設備投資が有効活用されないまま無用の長物と化してしまう事態も起きかねません。

ここでは、教育DXが抱える課題とその解決法について紹介します。

5-1. インフラの整備・維持にコストがかかる

1人1台端末を実現するにはアップデートやメンテナンスが必要です。故障が生じれば修理の費用も発生するでしょう。経年劣化による買い換えで数年ごとに費用が発生する点についても念頭に置かなければなりません。

また、校内の高速ネットワークを利用するには、毎月の費用がかかります。ネットワーク環境に関しては通信速度や品質に課題のある学校も多く、一斉にログインしようとすると一部の端末でネットワークにつながりにくい、ノイズが入るといった状況が生じるケースも報告されています。

こうしたインフラの設備と維持にかかるコストについては、目算を立てておくことが重要です。補助金の活用を考える場合も、インフラのコストについて配慮するといいでしょう。

5-2. セキュリティ対策が必要

教育DXはインターネット環境の利用が不可欠です。文部科学省の策定したガイドラインでは、安心してICTを活用するために十分な情報セキュリティ対策を講じることが不可欠であるとされています。

たとえば、利用者のIDやパスワードの管理方法を決めたり、情報セキュリティに対する専門家からの支援体制を確立しておくなどの対応が求められます。

情報漏えいが起きると、生徒や保護者の安全にも影響が及ぶでしょう。不正アクセスやマルウェアへの感染防止はもちろん、情報を取り扱う教職員に対しても情報リテラシーの向上を目指す取り組みを行うことが重要です。

出典:教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和6年1月)

5-3. ネット上でのトラブルへの対策が必要

ネット上でのやりとりは教員や保護者の目が行き届きにくく、近年ではネット上でのコミュニケーションにおいてトラブルが発生するケースも増えています。不用意な個人情報の公開や、ネット上での誹謗中傷は起きてからでは対応が難しい場合もあります。

こうしたトラブルを未然に防ぐため、情報モラル教育が必要です。インターネットの安全な利用方法や、個人情報の取扱い、著作権や肖像権など児童生徒の年齢に合わせた教育を行いましょう。不適切なコンテンツを表示しないよう閲覧制限をかけたり、生徒たち同士でインターネットの活用方法を議論するデジタルシティズンシップの取り組みを行ったりすることも大切です。

出典:文部科学省「情報モラル教育ポータルサイト」

出典:家庭で学ぶデジタル・シティズンシップ~実践ガイドブック~

5-4. 教職員のリテラシー教育が必要

インフラや機器が整備されても、教育を担当する教職員が使いこなせなければ、教育DXは成功とは言えません。教員が機材やソフトウェアをしっかりと活用できるよう、研修が必要です。転勤や退職で教員の入れ替わりが起きてもノウハウを引き継げるよう、マニュアルの整備も心がけましょう。

また、個人情報の取り扱いには一層の注意が必要です。安易にデータを扱わないよう、また、生徒の安全な利用を促進できるよう、教育者には十分なリテラシーが求められます。リテラシー向上のためには、教育委員会などによる研修や、自治体内での情報共有が有効です。他校や企業の取り組みも参考になるので、自校の校内研修に留めず外部との連携も積極的に行いましょう。

まとめ

教育DXの推進により、学習の効率化や個別最適化、教育の質の向上が期待されています。成功事例を参考にしながら適切な運用と改善を重ね、学びの変革を目指すことが必要とされます。デジタル技術の活用が進む今、単なるツール導入だけに留まらず、教育の本質的な改革を見据えた取り組みが重要です。

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