「DXハイスクール採択校に学ぶ! ~私立高校におけるデジタル人材育成の取り組み~」オンラインセミナーレポート
2025年2月7日、オンラインセミナー「DXハイスクール採択校に学ぶ! ~私立高校におけるデジタル人材育成の取り組み~」を開催した。初めに、高等学校等デジタル人材育成支援事業費補助金(通称・DXハイスクール補助金)の概要をKDDI まとめてオフィスから紹介した後、富山国際大学付属高等学校 橋本 知彦 教諭 と樟蔭中学校・高等学校 川浪 隆之 教諭に実際の利活用事例をご紹介いただいた。当日の様子をお届けする。
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講演1:富山国際大学付属高等学校の利活用事例
<講演者プロフィール>
富山国際大学付属高等学校
情報科教諭、情報管理責任者、メディア・テクノロジー部顧問、情報教育研究センター教育研究員
橋本知彦 教諭
ICT教育を推進し、クラウド化とiPadの全校導入を主導。
データサイエンティスト協会、慶應義塾大学 SFC ORF、大学コンソーシアム富山「富山県高大連携セミナー」などで研究事例発表。
富山国際付属高校は、2011年に Google Workspace™ を、2013年からはiPadを導入しており、現在は約1,000台のiPadを利用中。これまで取り組んできたICT環境の整備や授業での積極的な利活用というフェーズの延長線上に、DXハイスクールを位置づけている。
情報科教諭であり情報管理責任者も務める橋本教諭は、「コンピューターに強い高校生を作るのではなく、"社会問題を考えて解決するためのICT教育"をこの十年一貫してやってきた。iPadだけでなく、校内にあるさまざまなテクノロジーを横断的に展開できているのが本校の強み」と語った。顧問を務めるメディア・テクノロジー部で生徒と一緒に学んだ新しい技術を、情報の授業や校内のテクノロジーの発展に活かしている。
「Regenerative Design」の2つのプロジェクト
富山国際付属高校は、「Regenerative Design ※1 」に基づき、「Nature Positive」と「Healthcare」の2つのプロジェクトを展開している。テクノロジーを使って体験や学びを身近な問題に応用し、学校全体を「テクノロジー実装の実験場」とすることが目標だという。
※1 Regenerative Design...人間社会も含めた自然環境の本来持つ生成力を取り戻し、より良い状態を目指していく考え方。
自然環境への負担を減らす「Sustainability(持続可能性)」からさらに前進した概念。
1つ目のプロジェクト、Regenerative Design for Nature Positiveでの活用事例
Nature Positiveプロジェクトでは、校舎の屋上に農園を作り、生物多様性の実現を目指す。現在運用中のポッド(鉢植え)全63基にRaspberry Piを設置し、収集した環境データはStarlink ※2を使ってクラウドのデータベースに記録される仕組みだ。
※2 Starlink...人工衛星を活用し、地上にブロードバンド接続を提供するインターネットサービス
●カメラ付きアーム搭載のロボット
ロボットが農場を巡回し、野菜の葉の形状や状態、野菜に寄ってきた昆虫・動物などを記録する。情報Ⅱの人工知能に関する領域を先取りした授業内容になっている。
●3Dプリンター4台
TinkercadやFusion360を使ってオリジナルのポッドを製作し、AnkerMakeの3Dプリンターで出⼒した。これだけに留まらず、次年度は生徒の自宅でポッドが収集した情報を相互にデータ送受信できるようにしていく。
●その他
育てた草花から香水を作る蒸留器を購入。においの感想についてアンケートを収集し、質的データを分析する教材として活用している。また、生徒のロボットへの抵抗感をなくすためにSonyの⽝型ロボットaiboを2台購入し、校内で放し飼いにしている。
国立アイヌ民族博物館への研修旅行にもDXハイスクール補助金を活用した。橋本教諭は、「いきなりコンピューター分野から入るのではなく、このような体験や学びを、テクノロジーを使って身近な問題や社会課題の解決に応用するという視点が大切」と振り返った。
2つ目のプロジェクト、Regenerative Design for Healthcareでの活用事例
Healthcareプロジェクトでは、生徒とともに身体不活動という問題の解決に取り組んでいる。このプロジェクトに関連したDXハイスクール補助金の活用事例をご紹介する。
●外部講師を招いた特別授業
慶應義塾⼤学の⼩熊祐⼦先⽣を招き、⾝体不活動の問題、WHOの取り組みや⽇本の政策、ヘルスケア分野で活用されているテクノロジーや分析方法について学んだ。
●歩数データの分析と発表
5月の遠足では、生徒自身のスマホで歩数を計測し、情報の授業でExcelやPythonのデータ分析の材料として活用している。立候補した代表生徒11名が学年全体のデータ分析を行い、富山大学で中間発表を行った。3月には慶應義塾大学で最終報告を発表する予定。
●身体活動を定量分析できるプログラムの制作
身体活動を定量分析するための人工知能のプログラムを生徒と一緒に制作中。来年度には、運動量を計測できる機械を校内に設置する計画だという。
橋本教諭は、「Regenerative Designなので、分析して終わりではなく、最終的には自分たちの学校を変えていくことにつなげたい」と語った。
2024年度の成果と反省点
2024年度は、「校内テックリード」の育成にも取り組んできた。生成AIのAPIの使い方やデータ分析の方法、音楽ソフトの使い方やiPadでの描画方法などを生徒自身が動画にまとめ、関心のある後輩がそれを見て勉強できるという。生徒が生徒に対して学びを発信できる仕組みだ。
橋本教諭は2024年度の成果として、ICT教育の見える化やPBLゴールの明確化などを挙げた。授業数の不足や校内外のコミュニケーション不足、業務が担当者に極端に偏る「属人化」などの反省点を挙げながらも、「私立学校として特色あるICT教育を拡充できた。多くの学校がICT教育を掲げているなかで、本校にしかない『異色性』につながった」と、DXハイスクール補助金の成果について語った。
講演2:樟蔭中学校・高等学校の利活用事例
<講演者プロフィール>
樟蔭中学校・高等学校
指導教諭、中高ICT教育主幹、DXハイスクールチーフ、情報科主任
川浪隆之 教諭
2021年に学内に設置したSTEAM Lab.に常駐しコーディネーターとして、生徒とともに「デジタルものづくり活動」を推進している。
- マイクロソフト認定教育イノベーター2022-2025
- micro:bit Champion 2024
- ICT夢コンテスト2021 優良賞受賞
- 情報処理学会 専門委員会ノベルティWG 委員
- 日本情報科教育学会 情報科教育連携委員会 委員
★上記のリンクから、川浪教諭がパネリストとしてご登壇されたイベントレポートもご確認いただけます。
樟蔭中学校・高等学校は、以前よりインテルSTEAM Lab.実証研究校としてICT教育の充実に取り組んできた。1人1台の端末にはiPadを採用し、2021年度には3Dプリンターやレーザーカッター、高性能グラフィックボードを搭載したゲーミングPCなどを完備した「ICTラボ」を校内に設置。2024年度にDXハイスクール採択校となり、補助金を活用して「STEAM Lab.」へと拡充した。
修正やエラーを恐れず意見を出し合う「プロトタイピング思考」
情報科主任であり中高ICT教育主幹なども務める川浪教諭は、講演1の最後で橋本教諭が反省点として挙げた「業務の偏りと属人化」について触れ、理系の教科担当だけでなく管理職を中心にチームとして運用することの重要性を指摘した。
「DXハイスクール補助金の交付要綱には、各所に『文理横断的な探究的な学び』と記載されている。理系教科での学びをうまく使って、文系教科とコラボしていくような活動が大事ではないか」と語った。
そして、文理横断的な活動に取り組むSTEAM Lab. で大切にしているのが、「プロトタイピング思考」だ。修正やエラーを恐れず、プロトタイプ(試作品)を何度も作成し、意見を出し合いながら完成に近づけるという考え方であり、最初の一歩をなかなか踏み出せない生徒にとっても効果的だという。
申請時点での構想
2024年度のDXハイスクール補助金の申請時点では、学校として情報科学コース(仮)の設置を目指すほか、ICTラボからSTEAM Lab. への発展的改編や、生徒の交流場所としての「DXカフェ」の整備を想定していた。そのための設備備品費および関連諸経費が予算の9割を占め、残りの1割を消耗品、生徒・教職員・地域に向けた講座や研修などの謝礼費、研究会や学会に参加するための旅費に割り振っていた。
ただ、予算の内訳について川浪教諭は、「『旅費』の予算をもう少し手厚くすべきだった」と振り返る。
「教科の研究会や学会、全国大会などに参加する機会がない教員も多い。各教科におけるAIの活用事例を先生方が学ぶことで、生徒の学びに還元される。生徒の研修費用や旅費にも使えるので、旅費の部分を多くしたほうがよかった」と語った。
2024 年度の活用事例
樟蔭中学校・高等学校における2024年度のDXハイスクール補助金の活用事例をいくつかご紹介する。
●夏休みに「STEAM教室」を開催
地域の小中学生向けに「STEAM 教室」を4回開催した。リピーターも多く、地域に学びの場を提供するほか、校内の取り組みを地域に周知するという点でも効果があった。25年度はPTAや保護者など大人に向けたイベントも検討中とのこと。
●講座や研修の開催
生徒向けAI講座、教員向けのAI研修、地域に拓けたAI教育フォーラムを開催。著名人を招いた2月のフォーラムの開催概要も紹介し、「DXハイスクール補助金の研修費の活用先として、また、情報交換の機会として、ぜひ参加を」と添えた。
●3Dプリンターの活用事例
生徒たちはキーホルダー制作からスタートし、筆立てや消しゴムケースなど、身近な課題を解決できるものづくりに発展させている。作って終わりではなく言語化しまとめることで、探究的な活動にも役立てている。資料からは生徒が試行錯誤している様子が伝わり、「プロトタイピング思考」の浸透がうかがえた。
●その他
携帯性を重視したプレゼン用のWindows機のほか、用途に応じてiPadと連携しやすいMacBook AirやMac miniを購入。書画カメラ15台、プロトタイピングツール、アクアポニックス、レーザーカッターやAdobe Illustratorも導入した。文化祭では自動分別ゴミ箱を展示し、DXハイスクール事業の発表の場である全国情報教育コンテストへの挑戦にも補助金を活用した。
2025年度に向けて
次年度はSTEAM Lab. のさらなる拡充を目指し、3Dプリンターやレーザーカッターの増台とコンピューターミシンの設置を予定している。また、Zoomなどで他校の生徒たちと気軽にオンライン交流ができる「DXカフェ」や、他校と連携した海外研修旅行「DXトリップ」も企画中だ。最後に、川浪教諭はDXハイスクール関連の情報交換のためのFacebookグループを紹介し、「気軽に質問できる場として、このグループを使っていただけたら」と締めくくった。
質疑応答の様子
質疑応答では、「校内でのICTや情報教育の優先順位が低い」という話題に対して、育成すべき「デジタル人材」の定義を説明できる資料を情報科が率先して作ることなどを提案した。また、「教員間の温度差」や「文理横断的な活動の促進」に関する質問に対しては、教員研修会や日常的なサポートなどの体制作りに加えて、他科教員にも全国大会や研修会に積極的に参加してもらうことの重要性などが提示した。
質疑応答の最後には、川浪教諭から「学校はサブスクリプションの契約やクレジット決済が苦手。富山国際付属高校ではStarlinkを導入されているが、どのようにして決済したのか」と質問が上がった。
橋本教諭は「Starlinkはクレジット決済で、アニュアル(年1回)で直接購入しました」と回答した後、学校におけるクレジット決済の難しさに共感し、「企業側に見積書、請求書、納品書を発行していただくことが大事。請求書ベースなら、多くの学校が決済しやすくなると思う」と結んだ。
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最後に
KDDI まとめてオフィスでは、KDDIが長年培ってきた高品質でセキュアな通信を軸に、教育現場で役立つソリューションを提供しています。通信環境の整備から、タブレット・PCなどの端末や教材、DXハイスクール補助金の対象となる3Dプリンターや高性能PCなども、ワンストップでご提供可能です。
また、導入後の活用についての積極的なサポートや、教員のみなさまを対象にしたセミナーや研修なども実施しております。ICT導入や運用についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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※ 記載された情報は、掲載日現在のものです。